17: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:32:51.46 ID:l4IqRebF0
*
そこからは似たようなループが続きました。私も要領を得てきたのか、体調と練習のコントロールが上手くなってきたように思います。一週目より二週目、二週目よりも三週目と、レベルアップしているように思います。しかし、何度繰り返しても皆さんが感じる微妙な違和感を解消することはできませんでした。六週、七週……、と繰り返していくうちに私の心は憔悴していきました。そして八回目、ついに私は最初の段階でユニット活動を辞退しました。
18: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:33:30.77 ID:l4IqRebF0
クレシェンドブルーは私抜きの四人で活動することになりました。予想とは反して、心残りはありませんでした。むしろやっと肩の荷が下りて解放感に満ちていました。クレシェンドブルーのことは気にはなりますが、きっとあの四人なら成功させてくれるでしょう。
そんなある日、私は静香さんから二人で話がしたいと言われて、カフェに行くことになりました。忙しい合間を縫って私との時間を設けてくれたので、少しでも静香さんの気を楽にできたらと、意気込んでいました。
19: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:34:39.07 ID:l4IqRebF0
静香さんとは色んなことを話しました。クレシェンドブルーのことであったり、未来さんや翼さんのこと、学校のことや他愛のない雑談など、楽しい時間を過ごしました。
そろそろ帰ろうかと思い始めた頃、静香さんは急に真面目な顔になりました。それを見て私は少したじろいでしまいましたが、静香さんは表情を崩す気はありませんでした。重苦しい沈黙を破るように、ゆっくりと、静香さんは語りかけます。
20: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:35:17.21 ID:l4IqRebF0
「ねぇ、星梨花。今何周目?」
21: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:36:19.83 ID:l4IqRebF0
その言葉は今の私には鉛よりも重く、そしてナイフよりも鋭く私の胸に突き刺さりました。冷汗が止まりません。必死に何か言い訳を考えていると、静香さんの方から切り出してくれました。
「初めてクレシェンドブルーを結成した時、私は失敗してしまったの。その後、我にもなく『お願いします、もう一度チャンスをください!』なんて柄にもなく祈ったら、ユニット結成当日に戻ったの。幸運だと思ったわ。そこからは本当に色々な作戦を考えて、ありとあらゆる対策を講じたわ。まあ、全部失敗だったんだけどね」
驚きました。まさか静香さんまで、あの終わりのない迷路に迷い込んでいたなんて。
22: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:37:35.87 ID:l4IqRebF0
「ループの途中で少しだけ不可解なことがあって、星梨花の行動だけが毎回違うの。最初はたまたまってことで割り切ってたけど、今回のユニット辞退の件で確信したわ」
静香さんも一人で頑張っていたんだ。私は開いた口が止まらないのと同時に、運命から逃れようとしていた自分を恥じました。
「今回もきっと失敗すると思う。私ね、この次がダメならもうやり直すのはやめようと思ってるんだ。私も必要以上に優しくしたり、厳しくしたりしたんだけど、最後の一回は自分の心のままにやってみようと思うの。そうしたら……、きっと後悔もないから」
23: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:39:36.35 ID:l4IqRebF0
私は知りませんでした。静香さんがこんな覚悟を内に秘めていたなんて。きっと静香さんは次の一周に全てをぶつけるつもりでいるんでしょう。私は、結局何も決めれないまま焦りばかりが増して、そして最後の一周を迎えました。
24: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:40:32.65 ID:l4IqRebF0
*
もう慣れたものです。この日の部屋の物の配置、気温、日差しの角度などすっかり体で覚えてしまいました。準備万全でいつでも劇場に行くことができます。ただ、心の準備だけは今も整わないままでした。
劇場に行って、プロデューサーさんとクレシェンドブルーの皆さんとお会いしました。前回での言葉通り、静香さんの目は覚悟を決めた人のものでした。それに対して私はただ焦燥感だけを募らせるばかりで、前の周などと比べても出来はひどく悪いものでした。
25: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:41:29.91 ID:l4IqRebF0
静香さんが必要に配慮をしなくなったため、問題は割と早くに起こりました。原因は私が大幅に予定よりも遅れていること。志保さんが一週目同様に怒りを露にします。すかさず、静香さんや、茜さん、麗花さんがフォローに回ってくれますが、結果的に志保さんの火に油を注いだにすぎませんでした。
そこからは標的が私から逸れて、静香さんとの口論になりました。ああ、またです。私も静香さんもこんなことがしたくて何週もやり直してるんじゃないんです…… 私の中で、焦りや後悔、苛立ちがごちゃ混ぜになってパンクしそうです。もう嫌なんです。こんな光景を見るのは。みんなの苦しそうな顔しか見れないのは。
26: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:41:59.93 ID:l4IqRebF0
「もういい加減にしてください!!」
27: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:42:39.47 ID:l4IqRebF0
散々うるさかったレッスン場が一気にシンと静まりました。
「全部私が悪いんです! 私の物覚えが悪いから! 私のお父さんが厳しいから! なのにっ! 私のせいで皆さんまで怒ったりしたら……、嫌、です……」
レッスン場にいる人みんなが私の方を向いています。今まで人目に晒されることは少なくありませんでしたが、このような形では初めてでした。
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