星梨花「試されている迷路の中」
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13: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:29:28.07 ID:l4IqRebF0

 強烈な不快感と共に、私は自分のベッドで目覚めました。確か昨日は病院のベッドで眠ったはず…… 二度目ともなると物事を冷静に捉えることができるようですね。どうやら私は三周目に突入したみたいです。私は身支度などをしながら、今回どうやって成功に持っていくかなどを簡単に考え、そしてプロデューサーさんとクレシェンドブルーの皆さんが待つ事務所へと向かいました。

 三度目のプロデューサーさんの説明と三度目の顔合わせが終わり、三度目のユニット活動がスタートしました。前回は頑張りすぎが原因で失敗しましたが、ある程度の手ごたえは感じられたので、今回は練習も急速もバランスよく取り組むことにします。何といっても三度目の正直っていいますしね。今回こそは、と意気込み、また新たにレッスンや仕事に励みました。



14: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:30:24.05 ID:l4IqRebF0
 問題といった問題も発生せずについにライブ一週間前になりました。前回はここで倒れてしまいましたが、今回の私は超健康優良児そのもの。誰がどう見たって今日突然倒れるとは思わないでしょう。万全の体勢で私は最後の全体練習に臨みました。

 ここで私は過去にないほどのパフォーマンスを発揮しました。頭で考える前に体が動き、一切の音程のブレのない歌唱を披露することができました。油断していたわけではありませんが、今回の公演の成功を確信していました。



15: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:31:02.94 ID:l4IqRebF0
 私が自信に満ち溢れている一方で、他の四人はどこか不安そうな顔をしていました。プロデューサーさんも苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていました。練習終了後、急にプロデューサーさんがミーティングを開きました。普段ミーティングは一日の始まりや終わりの時だけにするものであって、このタイミングで開かれたのは初めてでした。プロデューサーさんが議題に挙げたのはただ一つ、今回のレッスンの反省会でした。

 最初に話すのは私だったので、自分が思ったままのことを言いました。上手に歌えた、踊れた、自惚れではありますが本番が楽しみなどと、嘘偽りのない本心を打ち明けました。



16: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:31:57.37 ID:l4IqRebF0
 しかし、他の四人は違いました。合っていない、だとか、何か違う、だとか、そういった感覚的なことで不安を抱いているようでした。特に印象的だったのは静香さんが言った、「ユニット活動をしている感じがしない」でした。私はみんなと感覚がズレていることに少し恐怖を覚え始めました。最後にはプロデューサーさんが総括して、

「お前たちは五人全員がソロとしてステージに立ってるようだ」

と言って、その日のミーティングは終わりました。結局、今回も失敗に終わりました。
以下略 AAS



17: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:32:51.46 ID:l4IqRebF0

 そこからは似たようなループが続きました。私も要領を得てきたのか、体調と練習のコントロールが上手くなってきたように思います。一週目より二週目、二週目よりも三週目と、レベルアップしているように思います。しかし、何度繰り返しても皆さんが感じる微妙な違和感を解消することはできませんでした。六週、七週……、と繰り返していくうちに私の心は憔悴していきました。そして八回目、ついに私は最初の段階でユニット活動を辞退しました。



18: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:33:30.77 ID:l4IqRebF0
 クレシェンドブルーは私抜きの四人で活動することになりました。予想とは反して、心残りはありませんでした。むしろやっと肩の荷が下りて解放感に満ちていました。クレシェンドブルーのことは気にはなりますが、きっとあの四人なら成功させてくれるでしょう。

 そんなある日、私は静香さんから二人で話がしたいと言われて、カフェに行くことになりました。忙しい合間を縫って私との時間を設けてくれたので、少しでも静香さんの気を楽にできたらと、意気込んでいました。



19: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:34:39.07 ID:l4IqRebF0
 静香さんとは色んなことを話しました。クレシェンドブルーのことであったり、未来さんや翼さんのこと、学校のことや他愛のない雑談など、楽しい時間を過ごしました。

 そろそろ帰ろうかと思い始めた頃、静香さんは急に真面目な顔になりました。それを見て私は少したじろいでしまいましたが、静香さんは表情を崩す気はありませんでした。重苦しい沈黙を破るように、ゆっくりと、静香さんは語りかけます。


20: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:35:17.21 ID:l4IqRebF0



「ねぇ、星梨花。今何周目?」

以下略 AAS



21: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:36:19.83 ID:l4IqRebF0
 その言葉は今の私には鉛よりも重く、そしてナイフよりも鋭く私の胸に突き刺さりました。冷汗が止まりません。必死に何か言い訳を考えていると、静香さんの方から切り出してくれました。

「初めてクレシェンドブルーを結成した時、私は失敗してしまったの。その後、我にもなく『お願いします、もう一度チャンスをください!』なんて柄にもなく祈ったら、ユニット結成当日に戻ったの。幸運だと思ったわ。そこからは本当に色々な作戦を考えて、ありとあらゆる対策を講じたわ。まあ、全部失敗だったんだけどね」

 驚きました。まさか静香さんまで、あの終わりのない迷路に迷い込んでいたなんて。
以下略 AAS



22: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:37:35.87 ID:l4IqRebF0
「ループの途中で少しだけ不可解なことがあって、星梨花の行動だけが毎回違うの。最初はたまたまってことで割り切ってたけど、今回のユニット辞退の件で確信したわ」

 静香さんも一人で頑張っていたんだ。私は開いた口が止まらないのと同時に、運命から逃れようとしていた自分を恥じました。

「今回もきっと失敗すると思う。私ね、この次がダメならもうやり直すのはやめようと思ってるんだ。私も必要以上に優しくしたり、厳しくしたりしたんだけど、最後の一回は自分の心のままにやってみようと思うの。そうしたら……、きっと後悔もないから」
以下略 AAS



23: ◆W56PhqhW.M
2018/02/26(月) 14:39:36.35 ID:l4IqRebF0
 私は知りませんでした。静香さんがこんな覚悟を内に秘めていたなんて。きっと静香さんは次の一周に全てをぶつけるつもりでいるんでしょう。私は、結局何も決めれないまま焦りばかりが増して、そして最後の一周を迎えました。


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