6:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/22(木) 08:42:53.19 ID:gJQnAjCL0
「そういえば、お菓子ということで……、みくちゃん、先日のバレンタインデーはいかがでしたか?」
「事務所のみんなと分け合いっこしたにゃ。っていうか、ナナちゃんも一緒だったでしょー!?」
「そうでしたねぇ。他には?」
「にゃし! 今日のライブで配る予定もにゃしにゃ!」
お客さんの大きな落胆の声が上がった。「物欲しそうな声しても渡さないんだからねっ!」と付け加える。菜々ちゃんは質問を続けた。
7:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/22(木) 08:43:56.80 ID:gJQnAjCL0
MCを挟みつつ、We are the friends!!、Wonder goes on!!、EVERMOREなどを歌い、大盛況のまま誕生日ライブは終わった。私のモヤモヤも、途中から頭の外に飛んでいた。
ライブが終わり衣装から着替え、帰る準備を整えた。だんだんと余韻が冷めて、頭の回転がしっかりしてくる。プロデューサーの指示を待つためいったん楽屋へ戻る道中、菜々ちゃんと話していると、ふと彼女のことが思い出された。
「ねぇ菜々ちゃん。今日李衣菜ちゃん見なかったけど何か知ってる?」
菜々ちゃんは一瞬思い出すような顔をした後、衝撃の事実を告げた。
8:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/22(木) 08:44:58.23 ID:gJQnAjCL0
菜々ちゃんは笑って「来年は来てくれますよ!」と励ましてくれた。彼女も近くの椅子に座る。私は、どうだろうな、と先日の李衣菜ちゃんの様子を思い出した。
≪ねぇ李衣菜ちゃん、私22日にライブやるんだけど、来る?≫
≪ゴメンみく! 私、その日はロック・ザ・ビートで音楽番組に出演することになってて……≫
≪……ふーん≫
9:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/22(木) 08:46:04.28 ID:gJQnAjCL0
私がため息をついたとき、ドアをノックする音と「プレゼントボックス、お届けに来ましたー」というスタッフさんの声がした。いつもはすぐ、ちょうど衣装を着替えるあたりでもらえるけど、今回は少し遅かった。誕生日だから多かったのかな。
菜々ちゃんは素早く立ち上がって、受け取りに行く。年下の私が取りに行くべきなんだろうけど、制止する前にすでに菜々ちゃんはドアを開けていた。ライブは何とかできるようになってきたけど、こういう部分ではアイドルとしてまだまだだなぁ、と私は思う。
なんで李衣菜ちゃんが来れないことを忘れていたんだろう、と続けて思い起こしていると、「いっぱい贈り物が届いてますよー」と菜々ちゃんが私の目の前に段ボール箱を持ってきて、考えはプツンと途切れた。
段ボール箱に入ったたくさんのプレゼント。色紙・メッセージカードをはじめ、ピンク色の猫じゃらしやたい焼きのキーホルダーなど、様々なものが入っている。私はその中からギターのピックを見出した。黒を背景に、ハートとイバラ、そして銘打たれているRock the Beatの文字。彼女たちの公式グッズだった。裏返すと、白ペンで李衣菜ちゃんと夏樹ちゃんのサイン、それと「みく、誕生日おめでとう!」と書かれている。
10:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/22(木) 08:46:56.75 ID:gJQnAjCL0
ピックを握って止まった私を菜々ちゃんが覗き込んできて、「あら」と言った。
「本当に寄ってきたんですね、あの人たち……」
「え?」と私は問い返した。菜々ちゃんは「あ゛」と声を漏らして固まった。
「……どういうこと?」
絞り出した声は震えている。怒っているような声音で自分でもビックリした。嬉しいからだと気付くまでに少しかかった。
11:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/22(木) 08:47:35.01 ID:gJQnAjCL0
唇の端に何か液体の感触を感じて、やっと泣いているのだ、と気づいた。ライブ後は頭と体がちぐはぐになる、と私は疲れのせいにした。
「……ナナ、少しお手洗い行きますね」
菜々ちゃんは私に背を向けて楽屋を出た。気を遣ってくれたのだろう。
菜々ちゃんが帰ってこれるように、私もしっかりしなきゃ。気持ちを振り払うために、私はピックから目を離してテレビをつけた。
12:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/22(木) 08:50:46.18 ID:gJQnAjCL0
スポットライトが点いた。李衣菜ちゃんと夏樹ちゃんがそこにいた。心臓の鼓動がバクバクとうるさい。
≪今日は何の日だー?≫
≪猫の日ー!≫
私と同じような煽り。イントロは私が知っているよりも長かった。よく見ると李衣菜ちゃんは青いネコミミヘッドホン、夏樹ちゃんはジャガーミミを着けている。
≪OKみんなわかってるねー!? それじゃあ聴いてよ!! 『ØωØver!!』≫
13:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/22(木) 08:51:18.81 ID:gJQnAjCL0
曲の終わり、李衣菜ちゃんは≪センキュー!!≫と言って何かを投げた。それはカメラの方に向かって飛んできて、次第に形が分かってきた。ピックだ。さらに近づき、それはカメラにぶつかって、画面は暗くなった。直前に見えたのは、白いペンで書いた拙いネコの絵だった。いや、拙くなかったかもしれない。私の視界は嬉し涙で滲んでいて、テレビの輪郭すらも覚束ないから。
菜々ちゃんが戻ってきた。私は彼女の顔を見れない。けど、彼女の胸に抱きついてしまった。柔らかい感触に包み込まれる。あーあ、そんなに泣いちゃって。カワイイ顔が台無しですよ? 菜々ちゃんはそう優しく語りかけた。
「……ほら、ハンカチです。どれだけ汚れてもいいですから、拭いてください」
ありがと、菜々チャン。つっかえつっかえのダミ声しか出ない。ハンカチはすでに少し濡れていた。見上げると目が合った。彼女の目もうるんでいて、ウサギみたいに赤かった。少し噴き出したように笑うと、「みくちゃんからもらい泣きしただけですからっ!」とそっぽを向かれた。
涙は留まるところを知らなかった。幸せに包まれたときにも涙ってこんなに出るんだな、と思った。
14:名無しNIPPER[sage saga]
2018/02/22(木) 08:53:29.13 ID:gJQnAjCL0
以上で完結です。
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過去作 李衣菜「午後11時」みく「午前5時」 ex14.vip2ch.com
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