6: ◆KZnt6dxe9U
2018/02/12(月) 10:24:53.20 ID:cVRITrXv0
田所は歩く。
ゴブリンの血に塗れた洞窟の中を。
不自然に静まり、啼き声ひとつしない森の中を。
彼の姿を見ると一目散に逃げる野盗たちがいる広野を。
田所は独り歩く。彼がホームにしている街中を。血に塗れた錆び銀の小板のネックレスを首からぶらさげながら。
勿論、街中は彼独り歩いている訳ではない。エルフ、レーア、ドワーフなどなど多種多様な歩く街中。
しかし。
「寂しいなあ」
自分にしか聞こえないように、田所は呟く。
このホームにしている街の名前は【下沢北】。
ここには彼には一晩中酒を飲んで騒げる友人も、背を預けうる戦友もいた。
しかし、寂しい夜にとも寝る恋人はいなかった。
彼が愛した者は平等にいなくなった。
田所は静かに心の中で涙を流した。
彼は彼なりにいなくなった理由は冷静に分析していた。
それは明確であった。足りないのだ、圧倒的に。
愛が。
彼らに対する愛が、である。
田所は無意識に膨張してきた股間部を意識しながら、内股気味に歩く。
次はもっと濃厚に、激烈にしなければ。
そう、思っていると、彼は街の目的地に着いた事に気づく。
田所の目の前に南国風の瓦と木造の平屋。入り口の看板には「冒険者組合」と書かれている。
彼はゆっくりとその敷居を跨いだ。
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