北条加蓮「アタシ努力とか根性とかそーゆーキャラじゃないんだよね」
1- 20
6: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2017/12/31(日) 21:38:55.62 ID:vyCd+JK40
 病院の消灯は早い。アタシが別荘にしていたところでは、午後の9時が消灯時間だった。
「その時間に必ず寝ろ」というわけではない。部屋の明かりが落とされるだけで、枕元の読書灯や、テレビは付けることができた。数時間おきに看護師さんが見回りにやってくるけど、よほど真夜中でない限り、とやかく言われることもない。
 とはいえ、朝の回診やらなんやらで、起こされる時間もほぼ決まっていたため、自然と規則正しい生活が体に染み付いて、消灯に合わせて眠る習慣ができていた。

 ただ、仲よくしていた子が、いなくなったと気付いてしまった夜には、なかなか眠ることができなかった。
 その子の身を案じる気持ちはもちろんあった。
 でもそれ以上に、『次は自分の番じゃないか?』という恐怖が強かった。

 だいぶあとになってから、「死刑囚は自分の刑が執行される日を知らされない」という話をどこかで聞いた。知ってしまうと、恐怖と絶望のあまり、その前に自殺してしまうのだそうだ。
 だから死刑囚たちは遠くから足音が聞こえると、「止まってくれ」と願い、足音が自分の部屋の前までやってくると、「通り過ぎてくれ」と願うらしい。そのストレスで病気になってしまうこともあるという。
 アタシにはその気持ちがよく理解できた。アタシは執行の日を怯えて待つ死刑囚だった。

 あの子は生きているのだろうか?

 わからない。

 自分はいつまで生きていられるのだろうか?

 わからない。

 わからなくても、考えないわけにはいかなかった。

 夜の病院は静かだ。
 静かで暗いというのは、どうしても死を連想させる。
 だからアタシはテレビをつけた。
 病院の売店で売っている、馬鹿みたいに長いイヤホンをジャックに差し込んだ。
 震える体にふとんを巻き付けて、声を噛み殺して泣いて、画面の明かりをにらみつけた。

 テレビには女の子が映っていた。
 女の子はアイドルだった。
 アタシが似ているとよく言われる、あのアイドルだ。
 彼女はキラキラしていた。きれいな衣装に身を包んで、たくさんの歓声を浴びていた。

 いいなあ、と思った。
 それは羨望ではなく、嫉妬だ。

 どうしてアタシは、ああじゃないんだろう?

 どうしてあの人はあんなに楽しそうに笑えるんだろう?

 死に怯え、布団にくるまって涙を流しているのは、どうしてアタシなんだろう?

 どうして、どうして、どうして。



『かれんちゃんならなれるよ』



 ……なれるわけない。だってアタシには、将来なんてないもの。

     *



<<前のレス[*]次のレス[#]>>
59Res/85.31 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice