萩原雪歩「ココロをつたえる場所」
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30: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 21:18:50.98 ID:bbgcA4Fi0

 手を取って四人で歩き出した舞台は、笑顔と歓声に包まれて進んでいった。
 一人ずつソロ曲を披露して、合間のMCではアドリブで色々なことに挑戦した……いや、挑戦させられた、の方が正確かもしれない。ロコはわたわたと、千鶴はやせ我慢とともに、桃子はそつなく、雪歩は目を回しながらくじ引きで出てきたお題をこなした。
 そうして高まる期待を感じながら、四人はステージに並んで最後のMCを進行していた。残るは、今回の公演の題目でもある一曲のみ。その前フリでもある会話の中で、唐突にロコが一歩前へ出た。

「オーディエンスのみなさん、ここでロコたちの右手に注目してください!」

「ブレスレットを着けてるの、わかりますか? なんとですね……このブレスレットは、みんなで協力してクリエイトしたものなんですっ!」

 驚きと感心のどよめきが客席に広がる。得意げな表情で言葉を続けようとしたロコを遮って、千鶴が少しだけ意地悪く笑う。

「あらコロちゃん、それはちょっと正確じゃない言い方じゃないかしら?」

「チヅル、ステージではコロちゃんで呼ばないでって、何度も言ってますよね! オーディエンスがトレースしたらどうするんですか!?」

「このブレスレットは、ロコアートなんだよ! ベースの部分はほとんどロコが作ってて、桃子たちはそれをデコレーションしたんだ。……ロコ、すごいよね?」

 ――おおーっ!!

 先ほどよりも明確な歓声が響いた。千鶴と漫才じみた掛け合いをしている隙に空気を完全に持っていかれたこと、そして思っていた以上にストレートな称賛が届いたことにロコは困惑する。

「え、あ、ちょっとモモコ……?」

「それじゃあ、ちゃーんと褒めてよね。せーの、コロちゃんすごーい!!」

 ――コロちゃんすごーい!!

「モモコまでっ!? ちょっと、ストップ、ストーップ!」

 大慌てしたロコの声が客席まで届くことはなかった。桃子は先ほどの千鶴以上に意地悪く笑い、観客を叱咤した。

「声が小さいっ! お兄ちゃんたちならもっとできるよね? それじゃあもう一回、せーのっ!」

 ――コロちゃんすごーい!!!!

 繰り返されて、なんとなく意図が分かってしまって、ぞくぞくとした感覚がロコの背中を走った。普段の桃子ならそう簡単に口にすることのない直接的で、熱烈な感情。ステージの上に立っている高揚と熱量を、ロコのために向けてくれているのだと気づいたら、もうだめだった。

「っ……ほ、ほんとに、褒められることじゃ、ないですから……。ぅ、その、ぐす……ストップです…………」

「……もう、泣くのが早いよ、ロコ。お兄ちゃんたち、ありがとっ! もうすぐ始めるから、ロコが泣き止むまでちょっとだけ待っててね。ほら、雪歩さんからも何かないの?」

 桃子は誤魔化すように無理やり雪歩へ話題を放り投げる。そしてロコに寄り添ってぐずつく彼女をなだめ始めた。MCは完全に投げっぱなしにするという意思表示に、雪歩は困惑することしかできない。

「ええっ!? き、急にそんなこと言われても、えっと、その……」

「わたくしたちの先輩、ですものね。しっかりと決めてくださいまし?」

「ち、千鶴さんまでーっ……! え、えっと。今日の公演、ここまで楽しんでいただけましたかーっ?」

 ――楽しかったー!!

 どうにかこうにか話し始めてみれば、言葉は自然と浮かび上がってきた。歩んできた軌跡をそのまま語れば、きっと時間は繋げそうだ。

「名残惜しいですが、次が最後の曲です。何を歌うかは……もうわかっちゃってるかもしれませんね」

「みんなでこの曲を練習する中で、こんな公演にしたいよねって、たくさんの夢を描きました。きっと、どれも叶えられたんじゃないかなって思ってます」

「悩んだり不器用にすれ違うこともあったけど、そんな思い出が全部、今の私を包んで勇気をくれるんです」

「そんな優しい気持ちを、みんなにも分けられるように歌います! ……準備、大丈夫そうだね。それでは、最後の最後までお楽しみください。曲は――」


 ――ココロがかえる場所。


おしまい



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