小日向美穂「空と風と恋と山と街と狸と人と」
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124: ◆DAC.3Z2hLk[saga]
2017/12/16(土) 01:37:41.77 ID:Qezuh/qr0


   ―― 12月18日 朝 人吉市・鏡山


「うぅっ、やっぱり寒いぃ……」
「大丈夫か? カイロあるぞ」
「ふるる……だ、大丈夫です。なんだかこの寒さも懐かしくって」

 車を降りて山を登ると、街とは別世界のような静かな景色。
 昨夜遅くから早朝にかけて積もった雪が、朝日を受けてきらきら輝いていました。
 雪雲は晴れて、めまいを覚えるような鮮やかな青空が広がっています。


 ここは私の本当の故郷。
 人吉は鏡山、日が当たる古びたお堂の境内です。

「それじゃ、美穂。俺はここで見てるから」
「はい。いってきますっ」

 ざっ、と境内の中心に歩み出ます。 
 人の姿はないけれど、そこにはたくさんの気配がありました。
 狸です。
 木陰に、雪の陰に、お堂の中に、縁の下に、たくさんの狸がひしめいて、私をじっと見守っています。
 それはお父さんやお母さんでもあって、お堂を守るお爺ちゃんやお婆ちゃんでもあって。
 海老原の狸でもあって、あちこちの無頼狸でもあって、とにかく色んなとこから集まってきた狸がいっぱい。

 お父さんやお母さんにも伝えておいた、最後に一つの「やりたいこと」を、今します。

 耳と尻尾をひょいっと出して、私は大きく息を吸い込み――――



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