【モバマス】十年後もお互いに独身だったら結婚する約束の比奈と(元)P
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30: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/12/24(日) 16:18:31.40 ID:HzWwrR110
「ようこそおいでくださいましたわ」

「あ、おじゃまします……」

 薄い桃色のドレス姿の櫻井桃華が優美に微笑み、使用人とともに深く頭を下げたので、雰囲気におされて思わずこちらも頭を下げてしまった。

 六月の中旬、佐々木千枝との誕生会を約束していた日。訪れていたのは櫻井桃華の邸宅だった。
 桃華を担当したことはないが、千枝が当時ブルーナポレオンとは別に活動していたユニットに桃華も所属していたため、桃華のことはそれなりに知っているし、面識もある。
 桃華もまた、年月を経て立派なレディに変貌していた。財界やメディアでの活躍は目に耳に入ってくるが、実物を目にすると、子どもの頃にはなかった、身に纏う高貴な雰囲気を肌で感じられる。

 千枝の言う怪しまれない場所とは、櫻井邸のことだった。千枝が同じアイドル仲間の櫻井邸を訪ねることは不自然ではない。そして時を別にして一般成人男性が櫻井邸を尋ねることもまた不自然ではない。そういうレベルの邸宅だ。怪しまれず、邪魔の入らない二人きりの空間は、櫻井桃華の協力によって達成される。
 すなわち、桃華は千枝の約束も想いも知っている。

 五月、プロダクションに戻れと言われたあの日の一件から今日までで、比奈や千枝との約束が第三者に漏れていることは、もはやあまり気にならなくなった。それでも、さすがにここまでお膳立てされていると、真綿で首を絞めつけられているような気分になる。

「千枝さんももうご準備がお済みですわ。さあ、奥へどうぞ」

 廊下の奥を示されて、靴を脱ぎ、奥へと進む。

「櫻井さんは、千枝の誕生日は?」

「先日お祝いさせていただきましたわ」

 桃華は目を細めて微笑む。『だから同席はしない、千枝とは二人きりで会え』と目が話していた。

「お料理だけ、順次運ばせていただきますけれど、ご容赦いただけるかしら」

「……恐縮です」

 費用は要らないと聞いていたが、この邸宅では出てくる食材の値段も計り知れない。払えと言われても困るが、全部持つ、と言われるのも逆に恐ろしくなる。

「こちらのお部屋ですわ」

 使用人が扉を開く。

「千枝さん、お見えになられましたわ」

「はい」

 千枝の返事がきこえてきた。

「ごゆっくり」

 桃華はこちらを見ながら言い、部屋の中へ入るように手の平で示した。
 一歩進み、部屋の中へ入ると、ゆっくりとドアが閉められた。

 ふう、とひとつ息をついて、できるだけ平静を装って、部屋を見渡す。
 十八畳ほどの広さの絨毯敷きの部屋だった。壁には数点の絵画と、暖炉のようにデザインされた空調機器、全体的な印象は華美ではなく落ち着いている。部屋の奥には大きな窓があるようだが、外から撮られないようにするためだろう、カーテンは閉じられていた。

「いやー、初めて来たけど、すごい家だ……な……」

 思わず足が止まった。
 佐々木千枝が、部屋の中心に置かれたテーブルの向こう側に立って、こちらを見てはにかんでいた。
 目を奪われた。いや、目だけでなく、全身を釘付けにされた。
 セミロングに編み込みの髪、透明なマスカラと薄めのチーク。片側の肩を出すワンピースドレスは身体のラインを美しく描き出し、スリットの入った長いスカートから白く長い脚がのぞいている。
 大きな瞳がこちらを見ていた。
 見られて、身震いした。プロデューサーとしての経歴が心のなかで叫んでいる。これは一人で見て良いものじゃない。この独占は社会的損失に等しい。すぐにでもこの姿の佐々木千枝という存在を広く世に知らせるべきなのに、なんてことをするんだ、沙理奈。
 誇らしかった。よくぞ、ここまで成長してくれた。

「えへへ……来てくれてありがとうございます。わがまま言って、ごめんなさい」

 千枝は破顔して、ぺこりと頭を下げる。その声を聞いて、ようやく現実へと戻ってこれた。

「ああ……気にしないで。座ろうか」



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