2:名無しNIPPER[saga]
2017/12/01(金) 20:24:20.45 ID:n8reEq6Z0
ここに二つのおちょこがある。いずれも備前焼のおちょこだ。
それぞれの名を太郎坊・次郎坊という。なぜ名前がついているのか。これには当然理由がある。
備前焼は普通絵付けはしない、つまり意図的に模様を入れることはしないのである。
しかも釉薬すら塗らないってんだから、できあがるのはざらざらしてていかにも土器土器したものとなる。
こんなこと聞いたら彼女は憤懣するだろうか、それとも噴飯するだろうか。
要するに備前焼はどんな模様ができるかわからない。
運否天賦、すべては神様の思し召しだと。そういう側面があると、ここで前おきしておきたいわけだ。
「面白いものが焼けたんです」
ある日、肇はそういって机の上に桐箱を置いてきた。
しゅるしゅると緋色のひもを解いて中を開けてみると、そこには太郎坊と次郎坊がいた。
いや、この時点ではまだ名前はついていないので、単なる二つのおちょこでしかなかったのだが。
こいつらは形こそ確かにおちょこだが、大きさも色も全く異なっていて、一見するとかけらも共通点がないように見えた。
先に言ったとおりそいつが備前焼の特徴なのだから、当然といえば当然だ。
「でも見てください、ほら……」
言われるがままにおちょこの底をのぞいてみると、
これがまた不思議なことに図ったように二つとも同じ模様が浮き出ていた。
これは桜の花っぽいな。
花びらが五枚あるとすーぐ桜を連想するのだから日本人は困る。
でも実際そう見えたんだから、こればかりは仕方がない。
「私はこれ、スミレの花だと思うんです」
スミレ、スミレの花……。
しらん。
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