69: ◆EpvVHyg9JE[saga]
2018/01/13(土) 23:09:52.15 ID:/JP3Jt5i0
先代勇者「……魔女。今度こそ、本当のさよならだ」
魔女「意外だね。もう少し悪あがきすると思っていたよ」
先代勇者「どこか心の片隅で自分に嫌気が差していたんだ。私は責任を取る。自らの命を以て、罪を償う。いや、死さえも逃げ道のひとつに過ぎないのかもしれない。最初から最後まで、駄目な男だった」
魔女は首を横に振った。
魔女「覚えてる? 海辺の町で、靴を片方無くした女の子に出会った時のこと。名前も知らないその子のために、キミは泥と埃まみれになってずっと靴を探し回ってた。新しい靴を買ってあげれば済む話なのに。戦士と僧侶も驚いていたよ」
勇者「まだレベルが一桁台の頃だったな。覚えてくれていたとは、驚いたぞ」
魔女「あんなに真っ直ぐで、誠実で、優しかったキミを誰が忘れたりするものか。今でもその本質は変わっていないと思ってる」
魔女「ただ、色々なものを背負い過ぎた。背負った物の重さに耐えきれず、自分を見失ってしまった」
先代勇者「私は、死ぬことで初めて自分を取り戻すのだな」
先代勇者「一足先に、酒場で皆を待つことにしよう。また四人揃ったら……あの時みたいに一緒に旅してくれるかな」
魔女「謝罪行脚、だね」
先代勇者「遅れたら置いてくぞ」
両手に枷を嵌めた先代勇者は、五人の兵に囲まれて大広場から離れていった。
詮議の後、刑を執行されるのだろう。
救国の英雄と称えられ、ありとあらゆる栄華を手にした男の、哀れな最期であった。
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