勇者「よーし、いっちょ叛乱でもするか!」
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48: ◆EpvVHyg9JE[saga]
2018/01/01(月) 19:32:14.99 ID:EN7XwCmTO
真夜中、仕事を終えた軍師は卓上のヘッドフォンと向かい合っていた。
静寂。たまにコツコツと使用人の靴音が聞こえるが、それ以外は完全な無音状態である。
扉の隙間をすり抜けて一匹の蛾が迷い込んできた。ランタンの明かりにつられたようだ。しかし、音はない。静寂。

間諜『その魔道具、実は聴力の調整が難しいんです。聞いてはいけないあんなことやそんなことが、四方八方からダダ漏れ……。くれぐれも、扱いには気をつけてくださいね」

軍師「薬師はああ言っていたが、そこまで酷いものだろうか。試しに、レベルを最大に合わせて聴いてみるとするか」

軍師は補聴レベルを最大の5にセットし、両耳に装着した。

『あいうえお〜かきくけこ〜さしすせそ〜』
『おい、やめろ! 俺がお前に何をしたっていうんだ! いきなりビンタは酷いだろう!』
『何をしたかですって? 自分の耳に聞いてごらんなさいよ、この浮気者!』
『眠いよぉ……』
『間諜、上手くやってるかな。なぁ魔女、あいつに任せて大丈夫なんだよな?』
『お頭、こんな町中に堂々と来ていいんですかい? バレやしませんかね』
『鉄門で待つ子分のためだ。黙って従え。見ろ、あれが先代勇者の館だぜ』
『酔っ払ってナニが悪ィんだよォ! あッ、やめ……くそおおおおおおおおおッ!!!』
『ちゃんと勉強して試験に合格しないと、立派な役人にはなれませんよ。ま、たまーに、身分が低いせいで苦渋を舐めることはありますけれどね。坊ちゃんには関係ないでしょ』
『急がねば、取引の時刻に遅れてしまう』

軍師「なんだ……これはッ……!」

一気に世界が開けた。狭くて暗い書斎から、急に町の大広場につまみ出されたような感覚。広場には大勢の人間がいて、それぞれが大きな声で唾を飛ばし合っている。
何より。

軍師「蛾の羽音がうるさい! 頭が割れそうだ。これはたまらん!」

安眠妨害には丁度いい。軍師はヘッドフォンを外すと、疲れ切った顔でレベルを2まで下げた。これなら、聞こえる範囲も絞られる。



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