202: ◆EpvVHyg9JE[saga]
2018/05/12(土) 19:29:28.05 ID:Qg3um/TT0
宿屋の主人「このくらいで良いだろう。おめぇら、休んでいいぞ。オラは他の仕事がある。陽が沈んだら帰る」
二人が去った後、主人はその場にしゃがみ込んで選別した麦の状態を見た。
本当に良質な麦か確かめるためだ。すると、麦山の奥から姿を表した影がある。
蒼い絹服に身を包んだ上級官員だ。
勇者「なぜこんな辺鄙な場所に上級官員が?」
目を疑った。宿屋の主人は官員に何度も頭を下げ、何かの入った包みを渡している。
包みを受け取った官員はピンと伸びた髭をつねると、踵を返して再び麦山の奥へ消えていった。
魔女「なにか面白いものでも見えた〜?」
魔女がぶっきらぼうに聞いてくる。
振り返ると、彼女は雪のように白い髪を櫛で梳かしている最中だった。
勇者「面白いものだって?」
魔女「声、震えてるよ」
勇者「うッ……」
宿屋の主人は官員と繋がっている。どういう形かまでは知らないが、繋がっていることに変わりない。
油断ならない人物だ。もし勇者であることが知れたら、官員ひいては国王にまでこちらの動きが筒抜けになってしまう。
魔女「キミが思っていること、当ててあげようか」
勇者「ああ?」
魔女と目が合う。混じり気のない薄紫色の瞳。
思っていることとはなんだ。
彼女はどこまで自分の心を見透かしているというのか。
宿屋の主人「おい、おめぇら。夕飯までちょっとかかる。その間に、サウナで汗でも流してこい」
魔女「ふふっ、ありがとう。部屋だけじゃなく食事やサウナまで」
宿屋の主人「久しぶりのお客様だからな。あとでゆっくり話、聞かせてくれや」
目を細めて笑う宿屋の主人。
その笑顔が、勇者には紛い物のように思えてならなかった。
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