バットマン「グランド……オーダー?」
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564: ◆GmHi5G5d.E[saga]
2018/01/11(木) 21:45:06.82 ID:JSdIgYqK0


 タマモキャットは気付く。上空、雲の切れ目より、月が顔をのぞかせている事に。

(まさか、月の光が……)

 呪いじみて、彼女の力を奪っている。その事実に気付いた時、カリギュラは既にタマモキャットの懐に飛び込んでいた。

「しまっ」

 防御姿勢を取ろうとし、よろめいた彼女の鳩尾に蹴りがめり込んだ。一瞬遅れて衝撃が胴体を貫き、吹き飛ばす。

「キャットっ!!!」


 エリザベートは我を忘れて叫び、カリギュラへ……狂った男目掛けて駆け出す。だが、雨粒を滴らせ、彼は笑った。

 エリザベート渾身の槍の振り下ろしは、いともたやすく腕甲で止められる。反撃の裏拳が脇腹に叩き付けられ、彼女は横ざまに吹き飛んだ。

「ネロォォォォォォ!!」


 叫ぶ。それは彼にとって、自分が人間であった最後の記憶。美しい皇帝。華のような。だが月の美しさには敵わない。あの輝きには。彼は歯を食い縛る。

 とどめを。カリギュラは目付きを鋭くし、倒れたタマモキャットへ歩いて行く。


 その時、輝きが降り注いだ。月の輝き……ではない。それはもっと神々しい、何かだった。


 カリギュラは飛び退いた。森の奥、小さな少女がクスクスと笑っていた。

「このステンノの誘いを断るなんて……無粋な人」


 カリギュラは本能的にそれを恐れた。

 月より美しいものなど無い。あってはならない。彼の存在理由が汚されてはならない。狂気が汚されてはならない。

 彼は月を見上げた。すがるように。だがその視線は、無情にも遮られる。


 月の光を背に受け、巨大な蝙蝠のシルエットが飛来した。


「やめろ」


 カリギュラは呻く。黒い騎士が降り立つ。雨が月光を湿らせる。


 力無く振られた腕を止め、バットマンは蹴りを繰り出した。まともに受け、カリギュラはよろめく。そこへ光球が着弾、爆発。ステンノ。


「っぐぅ……」


 カリギュラは転がり、起き上がろうと……力が籠らない。狂気が、消えてゆく。彼の存在理由が。月より美しいモノを、見つけてしまったのだ。


「……ネロ……」

 小さな呟きが、雨音に呑まれる。月光はもはや曇天に包まれ、わずかの輝きを灯す雨粒が降るのみである。

「……必ずローマを救う。約束する」

 雨に打たれ、ブルースは、死に行く彼を見下ろしていた。

 カリギュラは消えながら、笑みを浮かべた。その輝きの最後の一片が消えた時、彼の永遠もまた途絶えた。





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