515: ◆GmHi5G5d.E[saga]
2018/01/11(木) 20:23:34.89 ID:JSdIgYqK0
世界に取り残されるのは、初めてではなかった。
愛した人は、自分を置いて行ってしまう。どこか遠い、手の届かない場所へ。消えていくあの人の笑みは、未だ瞼裏から離れない。
こうなる事は、分かっていた。世界が私をそう定義付けているのだ。どれほどの召喚を重ねようとも、現世での恋心は叶わない。
だから、ああ、だから。目の前で死にゆく貴方を見ても、わたくしはちっとも悲しめない。それどころか、歓喜の情すら湧いて来る。また一緒になれる。
その筈、なのに。
(違います、旦那様)
水が全身にまとわりつき、力を奪ってくる。私は皮肉な笑みを浮かべ、旦那様の頬に手を添える。世界はやはり私達を裂くのだ。だってこんなにも、貴方に生きていて欲しいのだから。
唇を重ね、空気を送り込む。旦那様の瞼が跳ね、目を見開く。
(美しい瞳)
私が恋した人なのだ。零れない涙があふれ、水中へ溶けだして消えた。
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