295: ◆GmHi5G5d.E[saga]
2017/11/30(木) 22:09:22.33 ID:sSo3P/wF0
マシュはその叫びを聞き、後ろを振り向いた。
彼女のマスターがトゥーフェイスの宝具に縛られ、立ったまま苦悶の表情を浮かべているのを。二面の怪人が懐からコインを取り出すのを。
「テメエの罪はここで決まる。生存か、死刑か。陪審員の皆様はどうぞ静粛に……」
マシュは殆ど考える猶予も無く、ブルースの前に立った。未だデオンの宝具影響下にある彼女は、盾を構えられるほどの力が肢体に籠らない。
だが、それでも、背後に庇ったマスターは、命を懸ける価値があるのだと思えた。覚悟に唇を引き結んだ。
トゥーフェイスは一瞬驚いたような表情になり、すぐにまた、諦めたように冷酷な顔に戻った。
「公平な、裁きの時間だ」
キィン……コインが弾かれ、回転して宙を舞った。
その音は、アマデウスの演奏を切り裂き、サンソンの耳に届いた。サンソンは理性がほぼ消し飛んだ瞳で、それを見た。マスターを庇って立つマシュを。かつて二度処刑した王妃と同じ、真っ白な顔を。
その瞬間、卑怯な自己擁護を繰り返していたサンソンの理性は吹き飛び、ただ、自分は間違っていたのだという、どうしようもなく決定的な結論だけが、彼の剥き出しの心に突き刺さった。気が付けば彼は走り出していた。
トゥーフェイスはコインをキャッチし、掌のそれを見た。そして溜息を吐き、銃を向けた。
「……あばよ、お嬢さん」
二面の怪物は発砲した。
弾丸は真っ直ぐマシュを狙って飛び……飛び込んできた影が、それを受け止めた。サンソンだった。彼の心臓を貫き、弾丸は止まった。
トゥーフェイスは驚いたような表情でそれを見ていた。横からゲオルギウスに斬り付けられ、膝をついた時も、地面に倒れたサンソンをじっと見詰めていた。
「……たち、間違ってたんだ、僕達、間違ってたんだ……トゥーフェイス……トゥーフェイス、僕達、間違ってたんだよ……トゥーフェイス……」
嗚咽混じりの声が漏れる。トゥーフェイスは呆れたように溜め息を吐き、やがて仰向けに倒れた。底抜けの青い空が彼を見下ろしていた。
「……そんな事は、分かってんだよ……」
誰かが呟いた。悪人は、それが自分の口から出た言葉だと気付き、苦笑した。
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