16: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/10/29(日) 23:22:48.11 ID:s1IKgLXf0
音楽が始まってすぐに後ろへステップを踏む。
目立つことを考えるなら間違いなくマイナスの一手だけど、これで思い思いに立ち位置を決め、アピールの機会を伺うアイドルちゃんたちの動きに合わせられる。
ライバルのアイドルちゃんたちが一番得意で、一番自信を持ってるキメのアピールとその立ち位置。
何よりも魅力的な瞬間は全部、ありさの目と耳が覚えている。
だから、ありさは誰よりもみんなの動向に気を配って、それを最高に引き立てる場所でありさをアピールするのだ。
39プロジェクトの一員として劇場の公演をする中で、ありさは他のアイドルちゃんと綺麗に合わせるためのレッスンを積み重ねてきた。
ありさより歌が上手な子とも、体力があって運動神経がいい子とも、ちゃんと合わせられるようにって。
ありさの実力なんて、一緒にアピールを繰り返しているみんなには及びもつかないけれど、それでも審査員さんの視線をちゃんと集めていることが感じられた。
周りばかり見ていても、きっと不格好になってしまうだろう。だから博打にも似た先読みに従って踊り、歌い、ポーズを決める。
危うい行為のはずなのに、迷いなく身体が動いた。だって、信じてるから。
みんなカッコよくて、可愛くて、あるいは頼もしくすら感じられて……一番自分を魅力的に見せようとするその在り方に、ありさだってアイドルちゃんとして並び立ちたい、応えたいって思わされるから。
汗が額を振り切って雫になるのを感じる。上手く合わせ切れない場面も出てきてしまう。
集中力も判断力も、ありさの限界値をとっくにオーバーしているだろう。目に入った情報を処理しきれなくて、頭がぼうっとしてくる。
だけど、それでも、まだやれる。
落ちサビが終わる直前……ありさの最後のアピールは決まっているから。絶対にやりたいって決めてたことだから。
自分の立ち位置と、合わせたい位置だけを意識して、あとは身体に染み付いた感覚に任せる。
頭の中を流れる映像の通りにステップを踏み、ターンして、ラスサビの始まりに合わせてキメポーズ!
誰かの髪が背中をくすぐる感覚が、きっとうまくいったのだと信じさせてくれた。
「……っ!?」
すぐ耳元だから聞こえた、彼女が息をのむ音。
やった。踊ったのはスパーク☆めいでんちゃんのお決まりのキメポーズ。完璧にタイミングを合わせて、本人と背中合わせで完コピできたのだ!
アイドルオタクとして、彼女のファンとして、こんなに嬉しいことはそうないだろう。ありさがその光景を見られなかったことだけが心残りだ。
ぞくぞくする。他のアイドルちゃんと合わせてアピールした時にも感じたけど、その何十倍も大きな背筋を走る快感。
それをアドレナリンに変えて、勢いのまま最後まで走り切った。
曲が止まって、数秒。立っていることもできなくて、その場にへたり込む。
どっと疲れが身体と頭を襲ってきて、ああ、ムリしたんだなぁと改めて実感した。
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