佐久間まゆ「凛ちゃん聞いてください! まゆ、プロデューサーさんとキスしました!」
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◆E055cIpaPs
2017/10/29(日) 11:45:57.86 ID:T3zoKt8I0
今すぐにプロデューサーさんを抱きしめて、何千回と推敲を重ねた愛の言葉で掴まえないといけない。
目の前に広がるずっと願っていた夢の形に手を伸ばさなければならない。
ちゃんと分かっていながらも、まゆの頭の中は上がってしまいそうになる口角や、溢れてしまいそうになる涙を抑えることと。
それから、夕食のあとにちゃんと歯を磨いたかだとか、実はあまり上手に引けないチークの今日の出来栄えのことだとか。
とっくに茹で上がってしまっていた頭はまるで使い物にならなくて。
次から次へと思い浮かぶのはそんなどうしようもない事ばかりで。
オーバーヒートし続けるまゆの頭は空回り。
やがては指先ひとつ、思うように動かせなくなってしまっていました。
いつの間にか顔の火照りは全身に広がっていて、クーラーが聞いている筈なのに手のひらには汗がにじんでいて。
使い物にならなくなった頭に変わってまゆの心は、ただただこの一瞬が永遠に続いてくれる事だけを祈っていました。
指先どころか、爪の先だって動くはずがないんです。
だって、この一瞬がどれほどの奇跡の上に成り立っているのか、プロデューサーさんをずっと想いつづけたこの佐久間まゆには細胞1つ単位で分かってしまっているのだから。
実は起きていることにプロデューサーさんが気付いたら。
自分が今何をやっているのかを分かってしまったら。
二人の携帯電話が震えたら。
流れている音楽が変わったら、ちょっと体がふらついたら。
明日の予定を思い出したら、タバコが吸いたくなってしまったら。
髪に手が触れていることに気が付いたら、ふとした光が目に入ったら。
時間が気になったら、風がふいたら、お腹が空いたら。
一瞬のようでいて、永遠のようでいて。
それでも、やっぱり一瞬だったそのひとときは、後ろからけたたましく鳴り響いたクラクションの音に切り裂かれてしまいました。
ああ、そういえばプロデューサーさんに車で寮まで送っていただいている途中でしたね。
だなんて間抜けなことを思い浮かべているうちに、まゆを包み込んでいた暖かい感覚は、掬い上げられるようにふわりと上の方へと流れていきました。
こっそりと細く開いた瞼の向こうで、プロデューサーさんは思い出したようにあわてて車を発進させている様子が伺えます。
ハンドルを握りながらぽりぽりと頭をかく仕草は、事務所のアイドルならみんな知っている照れ隠しの仕草です。
なんとなく頬を染めているように見えるプロデューサーさん。
さっきまでは手を伸ばせば抱きしめられるほど近くにいたプロデューサーさん。
一瞬前の光景が嘘のように、今はいつもの私たちの距離にまでもどってしまったけれど、でも、どこかその距離はさっきまでに比べてうんと縮まったような気がします。
いまでもドキドキとなり続ける胸の鼓動と火照ったまゆの全身が、さっきまでの出来事が夢じゃなかったことを、そして、まだまゆの運命がつながっていることを信じさせてくれる証のように思えました。
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