32: ◆CItYBDS.l2[saga]
2017/10/08(日) 20:29:41.82 ID:M7RwPTHco
彼女がバッドエンドを忌避するようになったのは
俺の母親が、流行り病で死んでしまってからだった
俺と彼女は、これまで以上に演劇にのめり込んでいった
彼女は言う
「世の中は、こんなに辛いことに溢れてるんだから芝居ぐらい全部ハッピーエンドでいいのに」
その頃からだ
彼女はバッドエンドに鼻が利くようになった
芝居の中盤辺りになると、バッドエンドの香りがします
そういって、出て行ってしまうのだ
彼女の見立てはたいてい当たっていたが、外れることもしばしばあった
俺が自慢げに、「どんでん返しの大団円だった」と言うと
悔しそうに地団太を踏むのだ、それがたまらなく愉快だった
そうして彼女のヒステリーを一しきり楽しんだ後、二人でもう一度、その芝居を見直しに行った
彼女のハッピーエンド中毒は、徐々に悪化していく
遂には、舞台に上がり込み悪役を蹴り飛ばすようになった頃
彼女は勇者に選ばれた
それ以来だ
彼女は、これまで以上にバッドエンドを嗅ぎつけるようになった
彼女が「バッドエンドだ」と言えば、必ずそうなる、信じられないが必ずだ
かつてのように、見立てが外れることはなくなっていた
彼女は勇者の力を授かったと言っていた
もしかすると、その力がバッドエンドを嗅ぎつける一助となっているのかもしれない
バッドエンドをハッピーエンドに変える
それが勇者の役割であると言わんばかりに
そうであるならば、俺は女神を恨む
女神は彼女から心休まる日々を奪った
常にバッドエンドに怯える彼女を、無理やり舞台に引き上げた、くそったれの女神を
心から
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