14: ◆0PxB4V7kSI[sage saga]
2017/09/08(金) 01:16:54.87 ID:xMQ2bOga0
星々の灯り以外に頼るものなどない暗夜、
二人は足元に意識を集中させ、苔むした階段を一段一段と丁寧に登っていく。
石段を登りきると、今度は舗装されていない真っ黒な坂を上っていく。
その中途で土に濡れた三毛猫が忙しそうに通り過ぎて行き、虫は静かに合唱していた。
木々が生い茂った夜の神社は些か不気味ではあるが幻想的で、
ちょっとした山にでも登ったような気分だとまゆは思った。
……或いは、心が落ち着かない所為もあるのだろう。
見渡す限り、本当に人っ子一人いない通る人も居ないといった様子であり、
野外で"そういうこと"をするなんて妄想でもしたことはないし……なんて、
夜の雰囲気と射し込んでくる月の光が心を惑わしてきて、
浮わついた気分になって、変なことばかり考えてしまって、妙にドキドキしてしまう。
せめて意識を逸らそうと目線を上げると、まゆの深緑色の瞳に赤光が流れ込んできた。
「……!綺麗…………」
黒々としている葉っぱに遮られ、地上はもう見えない。
けれど木々が塞いでいるのは下方のみで、上方には全くかかっておらず
クリアな視界に空だけが映っていて、まるで空だけを見つめるために作られた展望台のよう。
地に足がついているこの地面が、空中を浮遊しているのではないかと錯覚するほどだった。
「その昔、俺もよくここから夜空を眺めていたことがあってな。
ここの景色を、まゆにも見せてやりたかったんだ」
ただ高所に赴いて月を見上げるのとは違った美しさがそこにはあった。
空から降り注ぐ光が何者にも阻害されず、何物にも反射されず、
"主演"を飾るスポットライトのようにただ此方を照らしてくれている。
極めつけに、今宵はその『色』も普段とは違っていた。
────月が紅い。普段は高高度にあって白光りの月光で夜空に煌めいているはずの月は、
雲より低い位置に真っ紅な血のような輝きで地上を照らしていた。
この手を伸ばして、長いリボンを風に棚引かせれば。きっと、天にさえ届いて
自身のもとへと引き寄せてしまえるだろうと思うほど近い月の下。
二人は、坂の頂上へと辿り着いた。
二人きりの、舞台へと。
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