172: ◆Si5ECPaBLY[sage saga]
2017/09/07(木) 07:34:41.27 ID:c6PUDvkw0
凛ちゃんへ
凛ちゃんへ。凛ちゃんがこれを読んでいるとき、まゆはもう凛ちゃんと話をすることはできないでしょう。なぜなら、まゆはもう死んでいるだろうから。
これは遺書ではありません。最後の最後に、自分勝手な私が縋りたかった一本の蜘蛛の糸です。悪魔の私が行く先はきっと地獄だから。凛ちゃんがこれを読むことで、まゆは凛ちゃんの中で永遠に生き続ける。だからこれは遺書ではありません。
凛ちゃんがPさんのことを好きになっていたこと、気付いてました。凛ちゃんは不器用だから、すぐに分かりましたよ?もうちょっと演技の練習をした方がいいかもしれませんね。
まゆがPさんのことを好きだから、遠慮してたんでしょう?ありがとうございます。でもそれは余計なお世話でした。そしてそれ以上に、まゆは凛ちゃんに嘘をついてほしくなかった。嘘をつく人は悪い人です。だから嘘をつく凛ちゃんは、悪い凛ちゃんです。凛ちゃんには悪い人になってほしくない。なんて、まるでまゆがお母さんみたいですね。
でも改めて考えてみると、凛ちゃんが悪い人でよかった。だってまゆも嘘をついていたから。悪い人だったから。これでおあいこ、お互い様です。
そうです。まゆは嘘をついていました。
凛ちゃんが告白してたとき、まゆがファンの人に襲われた事件のことです。実はあれはまゆが仕組んだことだったんですよ。不自然に思いませんでしたか?たまたま凛ちゃんがPさんに告白しているタイミングで。たまたま警備員さんが出払ってて。たまたままゆの楽屋に鍵がかかっていなくて、スタッフの中にまゆの熱烈なファンがいた、なんて。どう考えても出来すぎでしょう?
まゆがいつもPさんに盗聴器付きのGPSを付けていたこと、知ってましたか?知らなかったなら、これもまゆの悪いところの一つですね。実はPさんにつけてたものと同じものを、凛ちゃんにこっそり付けてたんです。場所はどこでもよかったんです。二人が一緒になったタイミングで、凛ちゃんがPさんに告白しているのが聞こえたとき。その時を見計らって、誰かにまゆを襲ってもらうようにしたんです。
あの収録の時は本当に運が良かったんですよ。たまたま、これは本当にたまたま、まゆが凛ちゃんと同じスタジオの収録で、尚且つ計画に協力してくれそうな男の人が番組スタッフの中にいたんです。協力と言っても、こっそりまゆの連絡先を渡して、楽屋に呼び出して誘惑しただけですけど。普通の男の人って単純ですよね。ちょっと流し目で見たり、ボディータッチしたり、奥の方の肌を見せるだけですぐに襲ってきました。まゆはスタンガンを隠し持ってたから、いいところで止めようと思ってたんですけど。まさか茄子さんが通りかかるなんて思ってませんでした。もしかしたら計画がうまくいったのも茄子さんのお陰だったのかもしれませんね。
なんでそんなことをしたかって?その理由だけは教えられません。凛ちゃんは知らなくていい。それはまゆの心の檻で飼い殺しておくことにします。この手紙は蜘蛛の糸と言いましたが、誰かが縋った蜘蛛の糸はいつか切れるものです。それならまゆは最初から切れ目を入れておきます。まゆが地獄に堕ちていく姿を、しっかりと目に焼き付けておいてくださいね。
ただ一つだけ言うとしたら。まゆは決して凛ちゃんやPさんが憎くてやったわけじゃありません。これはあくまでもまゆのための計画でした。その辺に転がっている滑稽な、青臭い幸せじゃなくて、私が本当に幸せになるための。
凛ちゃん。あなたは今、幸せですか?
凛ちゃんと二人で過ごした毎日は夢みたいに楽しかったです。一緒に夜ご飯を食べたり、一緒に映画を見て笑ったり、一緒に綺麗な夕焼けを眺めたり。思い返せば下らないことばかりしてたような気がするけど、まゆにとっては大切な宝物でした。凛ちゃんがまゆにハナコの写真を見せてくれたこと、ありましたよね?とてもかわいかったですよ。
でも、そのささやかな幸せは、まゆにとって本当の幸せじゃないんです。だからまゆはこの計画を立てました。そして、実行しました。
死ぬことは怖くありません。後悔もしていません。でもなんででしょう?文字を書く手が震えるんです。涙が溢れて、止まらないんです。文字が掠れて読みにくかったらごめんなさい。
さて、そろそろ垂らした糸が切れる頃です。まゆの下らない感傷は置いといて、凛ちゃんは自分の人生を選んでください。
最後に凛ちゃんへ。言いたいことは色々あるけれど、やっぱりこの手紙は凛ちゃんへの感謝の言葉で結びます。
時間は有限です。永遠のように感じてもそれは錯覚、嘘っぱちです。有限だからこそ儚く、美しく見える。そう思いませんか?そう考えたらまゆの人生なんか夢みたいに一瞬でした。でもその一瞬の隣に、凛ちゃんがいてくれて本当によかった。
ありがとうございます。
そして、さようなら。
おわり
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