23: ◆pdkDwyOMVs[sage saga]
2017/08/22(火) 06:55:17.83 ID:SInPf2jZo
「手なんてつながないって、子どもじゃないんだから」
……確かに、そんなことを言った、言ってしまった覚えはあるんだけど。
24: ◆pdkDwyOMVs[sage saga]
2017/08/22(火) 06:56:24.43 ID:SInPf2jZo
初めて大きな役で出演させてもらった映画を見にいこうと、放課後に待ち合わせをしたあの日。
プロデューサーはいつもと同じスーツ姿だったのに、
なぜだかいつもとは違って……どうしてなのかな、不思議なくらい格好よく見えて、
大人の男の人なんだ、って初めて意識してしまったんだ。
25: ◆pdkDwyOMVs[sage saga]
2017/08/22(火) 06:56:52.17 ID:SInPf2jZo
人混みの中を慣れない靴で歩く私に歩幅を合わせてゆっくり歩いてくれて。
ぶつかられてよろけた身体を優しく受け止めてくれた。
そうして、ほら、って右手を差し出されて。
26: ◆pdkDwyOMVs[sage saga]
2017/08/22(火) 06:57:20.75 ID:SInPf2jZo
怖かったんだと思う。
気持ちに気づくと同時に、二人の間に大きな差が……年だとか経験だとか、色んな違いが見えてしまって。
追いつかなきゃ、対等でいなきゃって心だけ前のめりになって。
27: ◆pdkDwyOMVs[sage saga]
2017/08/22(火) 06:57:49.09 ID:SInPf2jZo
下心に気づかれたと思った、ってプロデューサーは言う。
その気持ちを”下心”と表すのなら、その時私の中に生まれた気持ちこそが、”下心”だったんじゃないかな。
28: ◆pdkDwyOMVs[sage saga]
2017/08/22(火) 06:58:26.61 ID:SInPf2jZo
一つ一つ振り返っていくうちに、いくつものボタンの掛け違いを見つけていった。
お互いに鈍感だったり深読みしすぎたり、何も考えてなかったり。
少し怒って、少し謝って、……なんだか似たもの同士だね、って笑いあって。
29: ◆pdkDwyOMVs[sage saga]
2017/08/22(火) 06:58:55.57 ID:SInPf2jZo
だからこれからは、ちゃんと言葉にして、
ちゃんとぶつかって、……それから、今度こそは。
30: ◆pdkDwyOMVs[sage saga]
2017/08/22(火) 06:59:23.73 ID:SInPf2jZo
あの時始まったこの関係はきっと、ごっこ遊びみたいなものなんだと思う。
今の私とプロデューサーは、いつ終わるかわからない恋人ごっこをしているだけ。
どちらかが「おーわりっ」って言えば、すぐに解けてしまうような。
31: ◆pdkDwyOMVs[sage saga]
2017/08/22(火) 06:59:52.19 ID:SInPf2jZo
小さな約束を起点とした、静かな密かな関係。
だけど私は、ずっと続いたらいいな、って思う。
本当になるまで。本物にできるまで。
32: ◆pdkDwyOMVs[sage saga]
2017/08/22(火) 07:00:20.46 ID:SInPf2jZo
時計をちらっと見て、プロデューサーが立ち上がる。
私も荷物をまとめてソファを離れる。
今から歩いていけば、予約の時間にちょうどいいくらいかな。
33: ◆pdkDwyOMVs[sage saga]
2017/08/22(火) 07:00:48.41 ID:SInPf2jZo
事務所を出て、裏通りに回る。
「行こうか」
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