47:名無しNIPPER[sage]
2017/09/10(日) 03:32:20.03 ID:8buVcx260
俺「分かった。君に協力する」
少女「…ありがとうございます」
彼女は訝しげに俺をじっと見つめる。
少女「すこし、意外です」
俺「え?」
少女「幼馴染様の思ひ人なら、もっと気の強い方だと思いました」
俺「…」
少女「そういうところは、きらいではないです」
少女は、柔らかく微笑んだ。
それから少女は足取り軽く進み、時折重く沈んだ俺を急かした。
肩の荷が下りたのだろう、と俺は少女の背中を観察する。
現在、少女の勘違いを解く術はないのだろう。
仮に否定しても、勘違いを解くどころか、より深めてしまう可能性がある。
それに、表向き彼女に協力したように見せたとしても、幼馴染様にすべて伝えるだけの覚悟はしている。
少女「そういえば、俺さん」
俺「なんだい」
少女「都会に行ったことがありますか」
質問に、予定調和の答えを返す。
俺「一度もないよ。何度か、行ってみたいと思ったことはある」
少女「それはいいですね。着いたら、きっと驚くと思います。
昼は、馬車や人力車が唸りをあげて道路を駆け抜け、おっとりとした人を轢きかけますが気にしません。私たちは便がひっかけられ黒ずんだ木壁のすぐ横を、
慎重に進んでいくのです。洒落た山高帽をかぶった男性や、艶やかな着物を着た女性もいらっしゃいますが、みな一様に口をはんかちで覆っております」
俺「それはひどい」
少女「半分冗談です。ただ、皆が言うような天国ではないということです」
俺「君は、都会へ行ったことがあるんだな」
少女「ええ、用事で半月と少しばかり。すぐに村長様へ奉公しに行きました」
少女は、一瞬表情を凍らせたが、こともなげに答えた。
俺は気づかないふりをして、話を続ける。
俺「君、嫌なことだけじゃなく、良い所も教えてくれないか。
俺は今回の旅で、土産話をこしらえる必要があるのだ」
その相手は、床屋の女さんのことである。気まずくて、彼女とはあれから会っていない。
少女「そうですね、銀座の前の通りは夜もガス灯が明るく照らしていて、西洋の屋敷を際立たせて、それはもう美しいです。私も、あんなところへ住めたらと
思ってしまいました」
俺「はてガス灯とは?」
少女「ええと…西洋から伝わる不思議な火でございます。蝋燭とは違い、何か月も夜中をずっと照らし続けることができるようです」
俺「それは素晴らしい。ぜひ家に欲しいな」
特に我が家はトイレまでの道が長く険しいので、夜、母に起こされることには難儀していた。
俺「それは手に入れられるだろうか」
少女「さぁ。あれが売られていたところを見たことがありません」
俺「むむむ」
少女との会話が思ったよりも弾み、駅までの道のりは、短く感じられた。
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