41:名無しNIPPER[saga]
2017/08/31(木) 04:29:45.14 ID:j+BvQwLf0
明朝 村の出口
俺「気持ちは嬉しい。けれど、玄関まででよかったのに」
母「私のことより、自分のことを心配なさい。特にその手提丸型をおとさないようにね」
手からぶら下がった手提丸型は、蜂に刺された如く膨れ上がっている。
この中には、矢立て(現代の鉛筆)、日時計、振り分け弁当等々が入っている。ひとたびこれを失えば、二度とここには戻ってこられないだろう。
俺「スリ、置き引きにも気を付ける」
母「そうね。赤ゲットを着ていると狙われやすいから…」
赤ゲットとは赤色の毛布のことで、田舎者は外套の代わりにマントとして羽織るのだ。洒落たものが田舎に流通していないことの現れである。
その点、道路をはさんで立つ少女は違った。
えび茶色の袴が女性の貞淑さを醸し出し、それに矢絣の細やかな色波が弾けるような利発さを纏わせている。
彼女の目の前に立つ、村長様、幼馴染様が声をかけるたび、筆でさっと描いたような薄桃色の唇は緊張と責任感で固く結ばれつつあった。
村長様「くれぐれも怪我をせぬようにな」
幼馴染様「少女さん、お気をつけて、いってらっしゃいませ」
少女「村長様、幼馴染様、しっかりと使命を果たしてまいります」
それから、互いに別れの言葉をひとしきり述べたところで、俺と少女は並んで出発した。会話するのに不便なくらいには、お互い距離をとっていた。
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