女「犠牲の都市で人が死ぬ」 男「……仕方のないこと、なんだと思う」
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38:名無しNIPPER[sage]
2017/08/16(水) 20:41:59.43 ID:zemz0oy80
 
「どういう自分になりたい?」

 きっかけは、気まぐれの一言だった。いや、彼女はわざとこんなことをいったんだろうか。
 幼年期の、少しだけ分別が付き始めた頃。
 アリの死骸を見つけたら、悲しくなるということをわかり始めた頃。
 相手が嫌な気もちだと、自分も嫌な気持ちになるんだと、気づき始めた頃。
 当時、僕らはまだ、七歳だった。

「すごいひとになりたい」

 すごいひと。漠然とした、子供のふわふわした思考。

 子供の頃、世界はもっと狭いと思っていて、周りが幸せなら、世界全体は幸福だと思っていて。
 不可能なことはなかった。世界とは、自分のもので、自分そのものだった。

 ――願えば、なんでも叶うと、思っていた。

「どんなすごいひとになりたい?」

 僕よりほんの少し、具体的な考え方。ふわふわを、ほんの少しハッキリとさせる思考法。
 思えば、子供のわりに、彼女は大人なびていた気がする。

「しあわせにできるひと!」
「どうやってしあわせにするの?」
「なんとかする!」

 ひどい答えだった。

「あはは」と彼女は笑った。

「ねえいま、きみはしあわせなの?」

 と僕は聞く。

 君、キミ、きみ。恥ずかしがって、僕らはお互いの名前をあまりよばなかったっけ?
 彼女はとても幸せそうに笑っていた。

「もちろん。キミはどう?」

 小さかった頃の僕は、幸せそうに笑っているきみを見ていた。それで。

「しあわせだ!」


 わけもわからず、そう叫んだ。
 それは、まやかしや、ごまかしに近いのかもしれない。風邪がうつるように、つられて笑っていただけかもしれない。
 単純だった。でもそれが悪いことだというわけではなかった。

 そうやってきみの笑顔を見て。単純にいい気分になって。
 人の笑顔を見ると、自分も楽しいんだなあ、と思って。
 子供、だった。

 そんなあやふやな状態で、いろんなことを思った。
 すごいひとになりたいと思った。すごい人とは誰かを幸せにできる人だった。笑顔は幸せの象徴だと、信じた。

「きみはなんでわらってるの?」と僕は問いかける。
「しあわせだからだよ」
「ほんとうに?」
「ほんとうに」

 だから。
 ふわふわとした考えは少しずつ形を作っていった。いまだにそれは曖昧だった。
 それは、僕の基盤となった。


 ◇



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