女「犠牲の都市で人が死ぬ」 男「……仕方のないこと、なんだと思う」
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名無しNIPPER
2017/08/13(日) 18:12:45.04 ID:/6Xwlc9Z0
人が一人が死んで、何人救えれば納得できる?
人類は一度滅びた。天に現れた黒く、巨大な星によって。
人間は地下に都市を作った。その存続には犠牲が必要とされた。
……堕ちてきた星は、人間に有害な粒子をまき散らした。その粒子はどこにでも入り込む。対抗手段として、人はその粒子を道具として使った。そのためには、ある理由により人が一人死ぬ必要があった。
――いったい何人救えれば、死ぬべき犠牲者は満足するのだろうか。
百人? 一万人? 数十万人? どれも同じこと。
それでも、犠牲になる人間は必要だった。犠牲者本人の意思は、決して汲み取られることがない。
「犠牲になる人のこと、どう思う?」
彼女はたまに、そんなことを言っていた。僕はそれにかわいそうなことだと答えた。けれど仕方がないと。現実的には、誰かがそれをやらなくてはならないと。だって、そうしないと何十万もの人が死ぬ。
「生真面目さん」と彼女は笑った。それは関係ないだろうと、なぜだかむきになって返したのを今でも覚えている。
――幸せ、だった。
彼女といられることが。一緒に笑って、おかしなことを言って、彼女の笑顔を見て余韻に浸って。
当時、僕らは十七だった。同い年の彼女と一緒にいることが多かった。
欠けているものなど、なかった。
たびたび犠牲者についての話題は繰り返された。
僕の結論は、いつだって変わらない。そういう決まりは、法は守られるべきだ。社会の秩序は絶対的でなくてはならない。それならば、たった一人の個人はその意思を……無視されなければならないと。
そのたびに彼女は笑った。気づくことが、できなかった。
「立派だね、よく考えてる」
決まって彼女はそのあと、少しの間だけ後ろを向いていた。表情は見えなかった。
――見えれば、きっと、見捨てられたような顔をしているに違いなかった。
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:
名無しNIPPER
[sage]
2017/08/13(日) 18:14:02.04 ID:/6Xwlc9Z0
『我々の命は常に犠牲の上に成り立っている。我々が住むのは犠牲の都市だ』
人が一人を犠牲にし、ようやく自分たちは生きていられる。それを忘れないための、自戒の言葉。
それは頭に浮かんだ最初の言葉だった。とても、信じられなかった。
「……どういうことですか」
以下略
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