56: ◆Rin.ODRFYM[saga]
2017/08/10(木) 00:32:47.94 ID:c5e7bYk30
*
舞台袖から客席を覗く。
お客さん達は、今か今かと開演の時を待っている。
汗ばむ手のひらを拭って深呼吸を繰り返す。
大丈夫。大丈夫。
心の中で何度も何度も唱えた。
「……渋谷さん。緊張してますか」
そんな私を見兼ねたのか、プロデューサーが声をかけてきた。
「緊張、してますよね」
「……はい」
「おまじない……ではありませんが、これを」
プロデューサーはそう言うと、私に何かを差し出した。
大きなリンドウの花がついた、髪飾りだった。
「これ、って……」
「ええ。初期デザイン案の中にあった髪飾りです」
「でも、予算が下りなかった、って……」
「そこはそれ、現時点ではただ一人の、貴方のファンからの贈り物と思ってもらえれば」
泣きそうになるのを堪えて、「ありがとう、ございます」とお礼を言った。
「つけてもらっても、いいですか」
「はい。……では、失礼します」
定刻を告げるブザーが会場に鳴り響く。
「行ってきます」
歌とダンスで、応えよう。
それが、今の私に、アイドル渋谷凛にできる、最大限の感謝の伝え方だと思うから。
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