ことり「前略 木漏れ日の貴女へ」
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2:名無しNIPPER[saga]
2017/07/21(金) 18:47:26.72 ID:+NyjqKO10

      *


『拝啓 

 まだまだ残暑が厳しい日々ですが、いかがお過ごしでしょうか。

 なんて、私たちの間柄では不要な挨拶かもしれませんね。

 突然このような形で連絡を取ったこと、貴女は驚かれていると思います。

 封筒を取り落としなどしなかったでしょうか。貴女は少しそそっかしいところがありますからね。

 
 さて、こうして筆を執ったのは、今が8月の末だからです。
 
 夏の終わりは世界の終わり、とはよく言ったもの。

 絵里はどんな時に夏の終わりを感じますか。

 蝉の声が薄くなったときでしょうか。

 寝苦しくて夜に目を覚ますことがなくなったときでしょうか。

 台風が窓を鳴らすことが増えたときでしょうか。

 ああそうそう、向かいの家ですが、最近猫を飼い始めたのが窓から見えまして。

 先週は玄関先でだらしなく寝ころんでいたのが、今朝はふてぶてしい顔で歩き回っていました。

 これも夏の終わりの効果でしょうか。

 
 私はそうした景色や、音や、空気を感じるたびに、何やら物悲しい気分になるのです。

 何か大事なものを失ってしまったような気分にたまらず、手紙を書いているのです。

 いつの日からか、私の机に栞が置いてあるのです。

 勿忘草を押し花にして、ラミネート加工したものだと思います。
 
 
 私は、何を忘れているのでしょうか。

 この小さな部屋から出られず、何故日々をただ無駄に過ごしているのでしょうか。

 おかしいと思われるかもしれませんが、まだ外には恐怖で出られないのです。

 私は、この栞を誰からもらったのでしょうか。

 この栞の送り主は、私に何を忘れるなと迫るのでしょうか。

 
 夏の終わり、空色の勿忘草。私の頭にはある言葉だけがぐるぐると回っているのです。

 あの日を忘れるな、と――。


 長々とすみません。もし、絵里が何か知っているとしたら、教えていただけないでしょうか。
 
 お身体に気をつけてお過ごしください。  

 
 敬具

 8 月 31 日

 園田海未


 絢瀬絵里 様』



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