【デレマス】あやめ「バックストリート・ニンジャ・パフォーマンス」
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6:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:27:54.65 ID:0Mcrdfm2o
 在る。消えていない。あれは現実だった。男は繰り返しその事実を自分に言い聞かせる。長年丁寧に扱ってきた相棒であるこのカメラだが、今日はことさら繊細なガラス細工の如く脆く壊れやすい物のように思えた。男はカメラを仕舞い再び走りだす。


7:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:28:26.98 ID:0Mcrdfm2o
 彼の職業はフリーのジャーナリスト。やや古臭い俗語を持ち出せばパパラッチと言い換えることが出来るだろう。社会の闇に隠された真実を暴き出すなどという高尚な趣味は彼は持ち合わせていない。彼は自分の役割が、メディアに露出する有名人の私生活からあらを探し、あるいはでっち上げ、愚かな大衆の自尊心や妬みを解消させる為にあることを知っている。


8:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:28:52.71 ID:0Mcrdfm2o
 現代社会はパパラッチのような狡い職業に厳しくも、しかし優しく容易い。“素材”さえあれば大衆の悪意は容易に伝染し、素材はより洗練に加工され、ネットワークの海に拡散してその波は止めようが無くなる。対象にされた人間の、メディアからの商品価値はたちまちに暴落するだろう。CMスポンサー企業の株価と共に。


9:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:29:18.51 ID:0Mcrdfm2o
 芸能人のネタのスッパ抜き合戦はやがて企業間闘争の体を成していく。彼のようなフリーのジャーナリストは言わば傭兵であり斥候。そして致命の一撃を放つ毒矢とも成りうる職業だ。当然、それぞれの企業、特に芸能プロダクションが抱える企業戦士により社会的に命を落とすことも多い。……薬物乱用で廃人同然となった状態で、ブタ箱にぶち込まれた同業者もいる。


10:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:29:45.33 ID:0Mcrdfm2o
 だが彼はこの生き方以外に改める気は無かった。自身が命がけで手に入れた“素材”が、ネットワークを通じて巨大な怪物になっていく様を眺めるのはなかなかに良い気分だった。まるでプロデュースしたアイドルが大成功を収めるような錯覚──彼は足を止めた。


11:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:30:15.88 ID:0Mcrdfm2o
 角を曲がった直後、太いゴム製の紐が乱雑に張り巡らせられている。これがもし鋼鉄製の細いワイヤーであったのなら、彼の身体は膾切りにされていたことだろう。彼は今来た道を振り返る。やはり同様にゴム紐による封鎖がされていた。この数瞬の間に。


12:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:31:08.12 ID:0Mcrdfm2o
 最早男が自由に動き回れる空間は畳三枚分かそれ以下か。彼の持つ常人の三倍の脚力であれば問題なくここを抜け出せるだろうが……彼は上空を見上げた。粘り着くような雨が湿気とともに彼の顔を濡らす。そして彼は見た。屋上からこちらを見下ろす影を。


13:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:31:39.01 ID:0Mcrdfm2o
「どうも、記者さん。困りますよー、社内にいらっしゃるときは来客用のネームプレートを下げてもらわないと」


14:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:32:08.76 ID:0Mcrdfm2o
 その声は明らかに若い、そして高い。少女だ。男が一度瞬きをした。少女は男の目の前にいた。(早いな)男は瞬時に何百通りもの戦闘シミュレーションを行い、その内『隙を見て逃げる』パターンを捨てた。相手から視線を離さないまま、視界の隅でスマートフォンの画面を確かめる。圏外。(ジャマーは設置済み……当たり前か)


15:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:32:36.16 ID:0Mcrdfm2o
 男は声には出さず悪態をつく。(クソファッキンクライアントめ。何が『フェイス・トゥ・フェイスでの生データの受け渡しが条件』だ。時代遅れのセンチメンタリスト! 転落した少女アイドル好きの変態ジジイ! よりにもよって“あの”プロダクションに目をつけやがって!! ファックファックファック!!)


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