11:名無しNIPPER[sage saga]
2017/07/15(土) 20:15:32.37 ID:+jykf0ly0
研修を受け持つ身として、特に言うこともなかった。言ったことはきっちりやってくれるし、たまに間違うことを叱ればちゃんと飲み込んで反省する。
失礼な話ながら、思わぬ掘り出し物だな、なんて思ったことさえあった。
また、彼女とは仕事以外でもしばしば一緒の時間を過ごすことがあった。
家が近かったのだ。自分が住んでいるボロアパートから十分もしない距離に、彼女の家はあるらしい。帰り道を途中まで同じくすることも何度もあった。
そんな時は決まってどこかのコンビニに寄った。
「うあ〜さむさむっ! もーちべたいのは無理系だねー」
なんて言って二人並んでホットの缶コーヒーを飲んだのは、確か彼女と出会って二ヶ月ほどが経ったあたりだ。
喋るたびに白い息が漏れては霧散する。暖かい缶の熱が指にまとわりついて痺れを溶かす。
寒いのも当然で、暦は師走に入っていた。寒波が本腰を入れて列島に打ち寄せているらしく、作業中に汗が流れることもあまりなくなっていた頃だった。
「あ、そだ! ねえ親方、見てちょ見てちょ!」
小柄な彼女を見下ろす。
スチール缶が逆さまになるぐらいに勢いよく飲み干し、彼女は思いっきり息を吐いた。
その様子を見て、はて、どこかで。そんな既視感を覚えた。
「くっはぁ〜! こーのイッパイのために生きてるぜぇ☆」
酒飲みか、なんてツッコミを入れた。
「似てた似てた? ビール飲んでるとこマネしてみたんだけど!」
誰の、と尋ね、挙げられた同僚の名前を聞いて得心した。少し吹き出す。なかなかどうして特徴を捉えている。が、まあ聞くまではわからなかったから。
及第点だなと応えた。
「くぁー、きびちーっ!」
自分で自分のひたいをぺしっ、と叩いた。
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