10: ◆q5RWMTtiKKUe
2017/06/12(月) 22:24:30.63 ID:GTk52CSjo
この事務所でだって、当然事務員をするつもりだった。
「私がアイドルだなんて。」
今の彼女の年齢は世間一般でいうアイドルよりも、確かに少し高いだろう。
彼女にとってアイドルという不安定な職業に就くということも不安に感じられた。
しかし何よりも、アイドルになった自分の姿を想像できなかったのだ。
「そういう経験もないし、きっと私には・・・。」
事務所に電話をかけて、「アイドルはできない」とそう伝えるだけだった。
受話器を取って、メモに書いておいた電話番号を一つずつ押していく。
しかしその度に受話器を途中で戻してしまう。
彼女は閉まったままの窓からふと外をのぞいてみた。
窓の向こうに見えた曇り空は街を灰色に染めあげてしまっている。
それはまるで彼女自身の心を映しているように感じられ、思わずため息が溢れた。
結局彼女はその日のうちに決めることができなかった。
次の日、答えが決まらない彼女の元に一本の電話が鳴る。
それは事務所からの電話だった。
「もしどちらか決めかねているようなら、劇場に今日の公演を見にきてくれませんか?」
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