2:名無しNIPPER
2017/06/01(木) 23:39:04.73 ID:e7/Uid6j0
「なんでお前振袖なの」
披露宴参加者用の控え室を探しながら、隣を歩く妻に何気なく尋ねる。
鮮やかに結い上げた茶色の髪に、黒の振袖が恐ろしく似合う俺の妻。
彼女の名前は所恵美。
3:名無しNIPPER
2017/06/01(木) 23:39:36.73 ID:e7/Uid6j0
「式場でなにやってるんですか。2人とも」
俺が恵美を弄っていると、背中からふいにそんな咎めの言葉を投げかけられた。
2人して振り返る。そこにいたのは。
4:名無しNIPPER
2017/06/01(木) 23:40:16.01 ID:e7/Uid6j0
「いやー……これは無理。勝てないね
志保、あんた……綺麗になったねえ……」
鼻声になる恵美にハンカチをそっと渡す。
志保はこんなに美人になったのに、こいつの涙腺の脆さは変わらない。それが、恵美の美点でもあるんだけどな。
5:名無しNIPPER
2017/06/01(木) 23:42:48.64 ID:e7/Uid6j0
志保の案内で控え室に着いた俺達。
飲み物を買ってくると恵美に伝えた俺は、先程目星を付けていた喫煙室にやって来ていた。
昔から、考えを纏めるのにタバコは欠かせなかった。
最近は本数を減らすようにしているが、今回は状況が状況だ。
6:名無しNIPPER
2017/06/01(木) 23:45:50.51 ID:e7/Uid6j0
喫煙室に入って15分ほど。
おおよそのアイデアが纏まってきたところで、見慣れた人影が入ってきた。
スキニーデニムとスニーカー。Vネックのニットセーターというシンプルな服装が、彼女の素材を引き立たせている。
「プロデューサーさん。禁煙してなかったんですね」
7:名無しNIPPER
2017/06/01(木) 23:46:33.87 ID:e7/Uid6j0
言いながらポケットに手を入れる。
その姿を見過ごす俺ではない。
「……志保は? 飲み物買いに来ただけとか?」
「……夫から、30分だけ吸ってきていいよ。志保が戻ってきたら俺も行くからって言われたので」
8:名無しNIPPER
2017/06/01(木) 23:47:29.22 ID:e7/Uid6j0
「……もう10年だっけか。志保と知り合って」
「そうですね……今思えば、余裕がなかったなって思います。プロデューサーさんにもみんな……特に静香と可奈に迷惑をかけて。本当にあの時はごめんなさい」
「……誰にだってそういうことはあるよ。今更気にすんな。というさ。本当に俺で良かったのか。あれ。というか、10年立ってたらタバコくらい吸うよなあ」
志保の綺麗な唇から紫煙が揺らめく。
9:名無しNIPPER
2017/06/01(木) 23:48:08.48 ID:e7/Uid6j0
「……プロデューサーさんにしか頼めませんよ。こんなこと。中学の参観日も卒業式も。高校の入学式も参観日も卒業式も……とにかく忙し母に変わって行事事に参加してくれたのは全部プロデューサーさんじゃないですか」
「よく覚えてんな。そんなこと」
そういえばそんなことあった気もする。
10:名無しNIPPER
2017/06/01(木) 23:52:48.59 ID:e7/Uid6j0
志保が控え室に戻るのを見送って、スーツのポケットからメモ帳を取り出す。
待ってろよ志保。最高のスピーチを考えてやるからな。
11:名無しNIPPER
2017/06/01(木) 23:53:16.12 ID:e7/Uid6j0
ご紹介に預かりました。北沢志保のプロデューサーです。
私と志保は彼女が中学生の頃からの付き合いで……本人も言っていましたが、私は彼女の父親のような存在でした。
今振り返ると、私自身もそんな気がしてなりません。当時の志保……志保さんは本当に繊細で、だからこそ自分が守ってやらないと思わせる部分が多々ありました。
大人になるにつれて志保さんは成長しました。先程2人きりで話す機会がありましたが、人を思いやることができる優しくて素敵な女性に成長したなと心から思いました。
志保さんが私を父だと思ってくれているように、私にとっても……志保さんは、自慢の、そして最愛の娘です。
12:名無しNIPPER
2017/06/01(木) 23:54:38.26 ID:e7/Uid6j0
終わりです
志保さんが素敵なお嫁さんになれますように
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