1: ◆PChhdNeYjM[saga]
2017/05/18(木) 22:00:09.21 ID:Mb2ft/yRO
男「あの、面会なんですけれども。女さんです。……ええ、分かりました」
エレベーターに乗り、階数表示が段々と数字を上げる様子を、ただ茫然と見つめていた。
やがて、目的地の5Fで床の上昇がゆっくりと止まる。
十数秒歩き、待ち合わせの部屋へ到着すると、彼女の姿が視界に入った。
女「……あ、今日は来てくださったんですね」
男「ええ、お邪魔します。それで……調子はどうですか?」
女「もちろん順調ですよ。……はい、これが原稿です。病院のコピー機で印刷させていただきました」
男「いや、その……具合の方は……?」
女「ああ……何も変わりません。可も不可も無し、と言ったところですね」
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2: ◆PChhdNeYjM[saga]
2017/05/18(木) 22:01:03.11 ID:Mb2ft/yRO
女は、取ってつけたような笑顔でそう言った。
こうしている今も、彼女の小さな身体が蝕ばまれ続けているだなんて……想像もつかない。
3: ◆PChhdNeYjM[saga]
2017/05/18(木) 22:01:42.35 ID:Mb2ft/yRO
訪れた、数秒の沈黙。
時間が経てば経つほど、息をするのが辛くなってくる。
4: ◆PChhdNeYjM[saga]
2017/05/18(木) 22:02:10.15 ID:Mb2ft/yRO
多少の打ち合わせを行った後、逃げるように病室を後にして。
駐車場に止めた自分の車へ乗り込むと……思わず、ため息が出た。
5: ◆PChhdNeYjM[saga]
2017/05/18(木) 22:02:46.65 ID:Mb2ft/yRO
でも、それはお互い様だ。
彼女だって、自分に心の内を打ち明けたことが、ただの一度だってないのだから。
6: ◆PChhdNeYjM[saga]
2017/05/18(木) 22:03:14.97 ID:Mb2ft/yRO
彼女との出会いは、重なった偶然により生まれたものだった。
選考で落ちた彼女の作品が、たまたま選考委員の目に留まり、たまたま俺が担当につけられて。
7: ◆PChhdNeYjM[saga]
2017/05/18(木) 22:03:56.27 ID:Mb2ft/yRO
死ぬ前に、足跡を……自分がこの世に存在していたという証を残したい。
きっとそれが彼女の望みなのだ……俺は勝手にそう思っていて、勝手に感情が高ぶっていた。
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