【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」
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4: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/01(月) 21:26:16.63 ID:z+wGLY660
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「急なことで落ち着かないとは思うが、君にとってはまたとない成長のチャンスだ、がんばってくれよ」
会議が終わり、撤収作業でにわかに騒がしくなっている会議室の中で、壮年の先輩社員が穏やかな顔で、激励代わりに俺の肩を叩いた。
「頑張ってください、プロデューサーさん」
その横にいる、グリーンのスーツがトレードマークの女性事務員、千川ちひろさんがにっこりと笑い、ドリンクを差し出してくる。
俺はドリンクを受け取りながら「はあ」とあいまいな返事をした。
ちひろさんの笑顔は男性社員に人気があるが、ドリンクの差し入れは賛否両論だ。
気づかいは嬉しいが、一方でもっと働け、稼げと言われているような気分になるからだというのがその理由である。
二人は会議参加者の退室がほぼ終わったことを確認すると、会議室から出ていった。
「俺が、プロデューサー」
声に出しても、まだ現実味が感じられなかった。
プロデューサーなんて仕事をするつもりなんてなかった。
このままアシスタントプロデューサーという立場で、先輩の指示をこなすだけの適当な仕事をして稼げればよかった。
責任ある立場に昇格て変に仕事が忙しくなるようなら、適当なところで退職して実家に帰ろうと思っていた。
両親は俺に家業の酒屋を継がせたがっている。
個人商店とはいえその地域の需要を一手に担う酒屋だ。
いまの仕事のような華はないが、生活の安定は保証されている。
数年の都会暮らしで、上京の頃に持っていた都会へのあこがれも消え失せた。
両親の希望にも合致している。適当に、気楽に稼いで地元へ戻る。それが俺のライフプランだった。
だから、こんなに急にプロデューサーになるなんてことは、まったくの想定外だ。
もしめんどくさそうな人事の打診や内示があれば、その時点で断って地元に帰ろうと思っていたのに。
今日このときからプロデューサーでは、辞める準備すらできない。
「妙なことになっちゃったな」
誰もいなくなった会議室でそう口に出して、溜息をついた。
それから、プロデューサー、という言葉をもう一度頭の中で反芻する。
――そのとき。脳裏に、ほんの短い間、記憶の底にしまい込んだ映像が浮き上がった気がした。
さっき、居眠りのあいだに夢に見た、少女の映像。
『プロデュース、してくれる?』
「……はあ」
もうひとつ、わざと大きく溜息をついて、俺はその記憶にふたをする。
それから会議室の照明を落とすと、資料をまとめて会議室を後にした。
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