八幡「ゲームが完成しそうだからすぐこい?」 ルナ「ルナのゲームだよ」
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◆SqZQSXA.b2
[saga]
2017/04/14(金) 01:57:49.35 ID:MBRvBDD10
夢を叶えるために、必要なものはもう分かっている。
カードでそれを補うことができるなら、選択肢は一つだ。
俺は、陽乃さんから手渡された、大量のカードを広げた。
そして、見覚えのある絵柄をふたつ、即座に見つけることができた。
忘れるはずもない。その二人は俺を危機へと追いやった張本人なのだから。
ひとりはあらゆる敵意を圧し潰すような重厚な鎧を纏い、幾多の血を吸ってきたであろう長剣を今にも引き抜こうとしている。
眼球を失った眼窩からは戦意がこんこんと溢れだし、獲物は自身の終焉を悟る。
狩人の通り名はデュエリスト・モルディカイ。
もう一人は、夜明けの光と共に目も眩まんばかりの輝きを放つ、女騎士だ。
戦士として洗練された高等な戦闘技術と、なによりも愛を求め続けるその精神は高潔でありながら脆い。通り名は、天剣の乙女。
無言でその二名を選び、陽乃さんに渡すと、彼女は狐に包まれたような表情を浮かべた。
陽乃「比企谷君、よりにもよってこの二人を選ぶんだね」
八幡「ぼっちは、すこしでも知っている人物の方が落ち着くんです。
赤の他人に命令なんて、したくありませんから」
陽乃「ふうん。仕返しなんて、比企谷君らしいね。」
八幡「褒めてもなにもでませんよ」
陽乃「研究者としての客観的意見だよ。
比企谷君は異世界で、もう『失敗しない』ためのカードを選んだ。
大前提として、見も知らぬ人を仲間にすることは、ひどく危険だ。
ルナちゃんのときのように、言葉のすれ違いや精神的異常が齎す被害は甚大だからね。
だから、比企谷君の会った人物の中で最も御しやすいであろう二人を選んだ。
一人は不死身でかつ、命令は必ず守る男だし、もう一人は比企谷君の知る限り『理解のできる』思考だった。
結果、まったく浮ついた気持が見られない。警戒度マックスだよ、
例を挙げると、深夜誰もいない廊下で振り返っちゃうくらい」
八幡「俺は、目に見えている危険を避けただけです」
陽乃「幽霊の正体見たり枯れ尾花。
でも実際は危険なんだよ?今の自分の精神状態と自身を取り巻く周囲の環境がいもしない幽霊を存在すると思わせたんだから。」
八幡「今の、俺が危険な状況だと?」
陽乃「それに出題者が答えるのは、よくないなぁ。そうだ、これを旅立つ比企谷君への課題にしよう」
八幡「今回は、楽しむためのゲームだったはずでは?」
陽乃「君は、本当にこれを楽しむためのゲームだと思ってくれている?」
八幡「…。」
陽乃「自罰的だね。誰も喜ばないことを分かっているのに、やめられない」
それから、研究室内に沈黙が重く沈み込んだ。
彼女は、比企谷八幡がヘルメットを装着したのを確認してから、つぶやく。
陽乃「人工的に与えられた環境で、比企谷君が変わっていくのを、私たちは見たいだけなんだよ。
白い鼠に、頭がよくなる注射をうつ研究者と同じ。
君の、元々の精神には価値がないの」
かくして彼女は手元のスイッチを押して、彼を異世界へ再度送り込む。
凹んでしまったスイッチを幾度も撫でるその指は、微かな後悔を漂わせていた。
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