23: ◆AZbDPlV/MM[saga]
2017/05/01(月) 12:31:53.00 ID:gMD47v0p0
私は…私はなにをしているのだろうか?
今、私の腕の中にある柔らかくて暖かい、心を至福に満たしてくれるソレを……猫を……衝動に任せて部屋に連れ込んでしまった……。
猫 「にゃー」
この学園の寄宿棟は、動物に関する才能を持つ者以外のペット飼育は禁止されている。私の才能は《超高校級の剣道家》…自分が動物から嫌われていることを合わせても、ペットを飼うなどとは縁遠い。
(だが! 手離したくない!!)
猫 「にゃーッ!」
私を見つめている猫を抱き締める。力が入ってしまったのか、苦しそうに猫が身じろぐ。
「す、すまなかった」
ハッとして猫を床へとおろす。すると、猫は背筋を伸ばして、両足を床に着いてちょこんと座り込む。
可愛い。存在がもう可愛い。
(まず形からして反則だ! この全体的に丸く、頭から尾にかけてしなやかな曲線!! 耳の形なんて最高ではないかっ!!)
(はっ!)
私になにか訴えかけているのだろうか? 先ほどからずっと、私と目を合わせてくる。
(ご飯か? トイレか?)
どうして私には田中のような才能が備わっていないのだ…猫の気持ちがまるで解らない…。
しかし、猫の目線が私の後ろに向いた。私の背後には扉しかない。それはつまり…
「外に出たいのか?」
私の問いかけに、猫は“にゃー”と鳴いて、答える。
もしかして、言葉が解るのか? いや、解っていようといまいと、いきなりこんな場所に連れ込まれたら、不安にもなるか。
その気持ちはよく解る。解るのだが…
「私はお前を手離したくない…」
「できることなら、ずっと私の飼い猫として、ここにおいておきたい」
私から目を離さない猫の頭を撫でる。たったそれだけなのに、幸せになれる。
なんど試みても、この手触りをおさめされなかったのだ。こんな機会がまたあるとは限らない。ならばせめて、もう少しだけでも時間が欲しい。許して欲しい。
「……しかし、それは私の都合だ…お前はここから出たいようだからな…」
私を哀れんだ神が、ひとときの幸せを与えてくれたのだと思って、諦めてしまおう。
どうにしろ、この部屋はペット不可なのだ。隠しながらうまく飼える保証もない。
猫に対する執着、未練を断ち切ることを決めてから、私は撫でる手をとめた。
「……外に……出してやろう」
猫を抱えようと両手を差し出しすと、猫が後ろへと退がった。
「え?」
出たがっていたであろうはずの猫が踵を返し、元から備え付けられいたソファの上へと飛び乗り、座り込んだ。
まさか…私の気持ちを察して、残ろうとしてくれているのか?話かければ鳴いて答えるような聡い猫だ。つまりは、そう捉えても良いのか?
戸惑う私を一瞥した後、猫はそのまま体を丸め、寝る体勢に入った。この部屋に腰を落ち着けようということか?
そうなのか? そういうことなのか? そうならば、そうなのだとしたら……確かめてみよう。
「私の飼い猫になってくれるということか?」
猫 「にゃー」
愛らしい鳴き声が、私の問いに答えた。
今、人生の1/3の目標を達成できた瞬間だった。もちろん、残りは、坊ちゃんの命をお護りする使命だ。
(あぁ、あぁ…なんて幸福な日だろうか!!)
胸をこみ上げ、昂ぶる感情に、涙が溢れてしまいそうだ。寝付こうとしている猫を驚かせてしまうのを避けるため、猫を抱き締めたい衝動をぐっと抑え込んで耐えた。
「そろそろ、私は部屋を出ないといけない。休みの時間に戻ってくる」
「それまで、いい子にしていてくれ」
それに答えるように、猫は短く鳴いた。
i.imgur.com
90Res/117.39 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20