45:ヒヤコ ◆XksB4AwhxU
2017/03/13(月) 21:58:40.62 ID:ccxguUJC0
そこは、医療器具とベッドしかない、簡素な病室だった。
たしか希望ヶ峰でも一部の人間しか立ち入りを許されない区画の、さらに奥にあった。
そこで、俺と学園長が話している。
『学園長先生もやっぱり、希望ヶ峰学園のOBなんですか?』
何気なく聞いたのだろう。聞かれた当の学園長もぽかんとしている。
やがて『ああ、そうだよ』と頷いた。
『超高校級の探偵という肩書きでね。霧切一族は代々探偵を生業としているんだ。
学園創立から何度もスカウトは来ていたけど、入学したのは私が最初だ』
『やっぱり探偵って、表には出ないものなんですか』
『うん。だけど私は目立ちたがり屋だったんだ。学芸会でも堂々と主役に手を挙げるようなね。
学園は私を客寄せパンダにしたから、卒業した後も探偵としては顔が売れすぎて、"完成"しなかった。
親のすねをかじるのも申し訳ないから、思い切って家を飛び出したのさ』
『……娘さんを置いて?』
『松田君に聞いたのかい』
『あ、はい……すいません』
学園長は『今だって、学園長として顔を出しているのはその名残でね』と椅子にもたれかかる。
『認められたい、もっと見て欲しい、褒め称えられたい、名を残したい。
そんな欲も、ないと言えば嘘になる。というより、半分はそうかもしれない』
『人生は希望を賭けたギャンブルさ、そうしてたいていは負けっぱなしに終わる。
君だってそれが嫌だから、才能を渇望してこの手術を望むんだろう?だけど』
『生まれてこなければ……そもそも賭けることすらできない。
そして、才能がなければ……勝ちを祈ることすらできない。
だから、君は何も間違っていないよ。日向君』
左右田 「うおっ、日向!オメー泣いてんのか!!?」
九頭龍 「おい……大丈夫かよ、日向。今度はどんな惨いモンが見えたんだ?」
言われて、俺はようやく自分が泣いていることに気づいた。
涙をゴシゴシと袖でぬぐって「学園長」と答える。
左右田 「は?」
日向 「学園長と、話してたんだ。手術を受ける前の日に。それが見えた」
九頭龍 「こ、今回はずいぶん呑気だな……」
日向 「今分かった、学園長も俺と同じだったんだ……才能さえあれば、才能が全てだって……
そう信じることで、何とか生きていたんだ。だから、カムクラプロジェクトも」
左右田 「な、一旦落ち着け。いっこずつ話せって」
日向 「悪い。ちょっと一人にしてくれないか」
俺は慰めようとする左右田を振り払って、一人で寄宿舎に歩いた。
後ろでやけに静かになった西園寺や、さめざめと泣いているソニアがいるのは分かっていた。
だけど、今はそれどころじゃなかった。ただ、一人になりたかった。
204Res/358.32 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20