9: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/03(火) 00:12:24.20 ID:5kzXp0UHO
律「美波」
ドアの向こうから、義母の声が聞こえてきた。
律「ドアを開ける必要はないわ。そのまま聞いてちょうだい」
美波は顔だけ上げ、義母の言うとおりにした。
律「あなたはお父さんに似てるわね。極めて情動的」
その言葉の意図が美波にはよくわからなかった。普段なら言われてうれしいはずの言葉だが、いまのこの家の雰囲気のなかでは皮肉の調子がまとわりついていてもしかたのない言葉だった。
律「瞳の色や髪質といった形質的な面でもそうね。あなたのお母さんの写真を見たことがあるけれど、ほんとあなたにそっくり。それはつまり、わたしは生物学的な意味で、あなたの母親ではないということの証明なのだけれど」
先ほどの発言を根拠づけるかのような言葉に、美波は被告人のような気分になった。事実に基づいた証拠を提示され、行為の責任を取らされようとしている。美波の否定を律はいままさに肯定しようとしていた。美波にはそう思えた。
律「でもそれは、生物学的に、という限定的ないち条件にすぎないわ。あなたのお父さんとの結婚を決めたとき、わたしは同時にあなたの母親になることも決めたのだけど、それは決して結婚による副次的な決定ではなかった。言ってる意味がわかる?」
事件に対して誤った見方をする警部にその間違いを逐一指摘する探偵のように、律は美波に自分が持つ前提を理解させようとした。
律「わたしは倫理的にあなたの母親であろうとし、そして今では本能的にもそうだと断言できる。あなたがどう思っていようがね」
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