798: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/01/26(土) 22:43:22.94 ID:ymR8HEsBO
永井はこの考えを、少年漫画の読みすぎだ、と黒い粒子の狼煙による返答で一蹴したが、銃弾の前に生の肉体を晒してたたかうといういざというときの心構えが完全に退けられることはなかった。この心構えは警備員の死に気づいてから具体的な細部を持ったイメージへと変わったが、いまでは空想の域にまで入り込んでいた。肉体に穿たれた孔と流れ出す血は勇者の赤いバッヂとなり勇敢さをたたえる、こうした空想は輪郭があいまいで現実的な苦痛から遠く隔たっていることをアナスタシアは自覚せざるをえなかった。空想は退けられた。だが、後ろめたさは残していた。永井に言わせれば後ろめたさを抱くこと自体見当はずれの感傷に過ぎないのだが、アナスタシアはそうとは思わない。死なないからこそ、死を他人事にしてはいけないのだと、アナスタシアは考えていた。
そしていま、暗闇の中に浮かび上がった四通目のメールを見つめながら、アナスタシアは命令通りに待機の時間の只中にいた。センサーが反応しないように最小限動きだけでスマートフォンや無線機を操作しながら、ただひたすら、佐藤が現れるまで待つ。後ろめたさを錘にしながら。
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