697: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/10/15(月) 21:23:34.23 ID:z5kRHM0CO
アナスタシアはメールを送ろうとしたが考え直し、了解の旨を黒い粒子で伝えることにした。窓から手を伸ばし、粒子を放出する。
アナスタシアは舞い落ちる雪片を眺めるように、空に上がる粒子を見上げていた。
視線を戻すと、北西の粒子が昇るの止めていた。アナスタシアは手を引っ込めようとしたが、思いとどまり、手を真っ直ぐ伸ばすと、ふたたび黒い粒子の放出を始めた。
おやすみ、とアナスタシアは永井に告げた。永井からの返事はなかった。
アナスタシアはふてくされながらベッドに戻ると、夏用の掛け布団から腕を出して眼を閉じた。すぐには眠れなかった。心臓が早っていた。
これは恐怖なんかじゃない、アナスタシアは自分にそう言い聞かせ、ぎゅっと閉じた瞼に力を入れた。
アナスタシア「ニ プーハ ニ ペラー」
アナスタシアは願掛けの言葉をちいさく発した。「獣も鳥も獲れませんように」という意味の言葉。
ロシアでは成功を祈る言葉を口にすると、すぐそばに潜む悪霊が成功の邪魔をすると言われている。だからあえて失敗を口にして、悪霊を欺くのだ。
古い迷信で、アナスタシアもこの願掛けを実際に口にしたことは祖母に教えられたとき以来だった。
いま、猟の失敗を祈願するこの言葉を唱えたアナスタシアは、心のなかでこう思った。
どうか、悪霊がわたしが思っているより賢いことがありませんように。わたしの心のなかまで見透かすことがありませんように。わたしの恐怖を見透かすことがありませんように。
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