新田美波「わたしの弟が、亜人……?」
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232: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 22:28:13.65 ID:AMJLL1TVO

美波の腕は、まるで風に吹かれた布切れみたいに音もなくあがり、スマートフォンを操作していた。美波の様子をうかがっている女子寮のメンバーたちは、美波にそれをさせていいのかわからなかった。彼女たちは、その映像は、美波にとってよくないものなのではないかと漠然と感じていた。だからといって、見るなと言うこともできなかった。研究所にいた弟が、そのあいだどのように扱われていたのかを知る唯一の具体的な証拠だったからだ。彼女たちの予感の方向性は映像が再生された途端、正しかったのだとわかった。

アップロードされた映像のなかで、包帯によるがんじがらめの拘束がされた田中が銃で撃たれて死んだ。次の映像で田中は金属製の台の上に寝かせられていて、その台は巨大な機械の一部で、その機械はプレス機だった。機械の作動スイッチが押され、田中の肉体は圧力で潰れた。映像はきちんと音声も記録していた。胸部に杭を打ち込まれた状態の田中が激しい苦痛に咽び泣いている十五秒ほどの映像がそのあとに続いた。

次の映像は自動車の衝突実験の記録映像だったが、美波はもう映像を見ていなかった。トイレに駆け込むと、口を押さえていた手を離し、激しく嘔吐した。最近は食欲があまりなく、吐き出されたのはほとんど胃液だったが、嘔吐は一回で終わらず長いあいだ続いた。最後には胃液すら出なくなり、それでも胃の痙攣と喉のえづきが止まないので、やがて喉が切れ血が混じった唾液を口から垂らした。吐き気が去るとやって来たのは救いようのない絶望だった。美波は嗚咽した。裁判での自分の証言が家族の断頭台行きを決定付けてしまった人間のように嗚咽した。前川みくがおそるおそるといった感じで美波の小刻みに震え続ける肩を抱いたが、それ以上のことはなにもできなかった。



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