140: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/08(土) 21:30:21.06 ID:4YLo7u+WO
下村は不思議そうに美波に問い返してきた。その態度が自然なものか装われたものか、美波には判断できなかった。後者だと思うのだが、自信がない。病室で下村に起きたことは鮮明に記憶しているが、その鮮明さ故に間違った記憶ではないのかと不安になってくる。記憶のなかにいる死んだ下村と、いま美波の目の前にすわっている下村はその実在感において、ほとんど遜色がなかった。間違い探しをしているようなものだが、二つの光景は似ても似つかない。ただリアリティにおいて、記憶は現実と同じレベルの強度を持っていた。
診療時間を過ぎた院内は、静かで寂しげだった。ときおり通路に移動する看護師の足音が聞こえるくらいで、患者たちはおとなしく、医療機器は無機質な音を出している。時刻は午後五時半をまわり、病室での出来事から三時間が経過していた。
下村「今回の事件についてですが、亜人管理委員会の調査案件となりました」
気を取り直した下村は美波の状態が落ち着いたと判断したとき、つとめて事務的な口調で言った。
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