志希「それじゃあ、アタシがギフテッドじゃなくなった話でもしよっか」
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41:名無しNIPPER[saga]
2016/11/21(月) 03:27:30.51 ID:K1l634mG0

ある日、仕事が終わり帰り支度を済ませたアタシは、さっさと事務所を去ろうとしていた。夕暮に染まった窓の外を眺めるアタシはとても疲れていたし、「早く家に帰りたいなー」なんてことも思っていた。

だけど、扉に手をかけたアタシに向かって「あのさ」と彼が何かを言いかけたものだから、そのまま振り返って「んー、どうしたのー?」と甘ったるい声を漏らすことになったんだよね。

彼は何か言いたそうにしたけれど、すぐに「いや、すまない。大丈夫だ……」と手を横に振った。


……生まれ変わってから、彼について分かったことがある。
ときどき、この男はこういう素振りを見せる。こういうとても分かりにくい素振りを、だ。
そして、そういうときは決まって、彼は何かどうしてもアタシに言いたいことがあるのだ。

それなのに、アタシを気遣ってそれを言わないようにしている。
ギフテッドの頃ならば「そうなんだー、それじゃアタシ帰るねー」なんて適当に流していたかもしれない。

だけど、今はちがう。何もかもが違っている。

だからこそ、その素振りは、いつだってアタシの虫の居所を悪くさせたのだろう。


「なになにー、このシキちゃんに何か言いたいことでもあるのー?」


あくまで平静を装って、アタシはアタシであることを務めた。この気持ちを気づかれないように、悟られないように。大丈夫、なんて心の中で自分に言い聞かせて。

彼はそんなアタシを一度だけ眺めると、聞こえないように溜息を吐いた。

それでね。扉の前に立っていたアタシに向けて、しばらく黙りこくった彼が、


「大きな仕事が入るかもしれないんだ――とある映画の、主演女優の話だ」


なんてことを突然言うもんだからさ。

だから、ドアノブを握ったアタシの手のひらから力が抜けてしまったのも、別におかしくはないのかもしれないね。




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