【スペース・コブラ】古い王の地、ロードラン
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752:名無しNIPPER[saga]
2021/12/25(土) 09:23:38.88 ID:S0I1LbMM0
マニピュレーターを伝ってタートル号の船内に入った不死達と神々は、疲れ切っていた。
周囲に広がる、見たこともない金属が作り出す幾何学模様。由来の知れぬ造形。未来や過去にも姿無き文明の結晶。
それら全てに関心や警戒心を払えず、ただもたれ掛かり、あるいは寝そべるしかないほどに。


グウィンドリン「礼を言うレディ。そなたの船が駆けなければ、今頃我らは死んでいただろう」


床に倒れ伏したオーンスタインに癒しの奇跡を施しつつ、暗月の君主は震える声で、操縦席に座るレディに感謝した。
かの神の手元に輝く光は、オーンスタインの鎧に穿たれた二つの穴を照らし消さんとするが、恐るべき威力により生じた傷は、その光さえも切り取るかのような暗さを崩さない。


レディ「礼を言うのはまだ早いわ。今はこの状況を切り抜けることだけを考えましょう」


レディが手元のコンソールを操作すると、タートル号は減速し、ゆったりとした航行に移行した。
操縦席から離れて、レディはメインデッキに倒れ込む仲間たちに語りかける。


レディ「タートル号の操縦をオートパイロットモードに設定したわ。私たちは遥か上空の雲の上。いくら彼らが強大でも、空は飛べないはずよ」

レディ「グウィンドリン、あなたはオーンスタインを医療室へ。彼をベッドに寝かせたら診断プロトコルが自動で立ち上がるわ。あとは治療プロトコルを…」

グウィンドリン「…プロ、トコル…?」


レディ「………」


混迷を極めた状況の中でただ一人冷静な判断力を保ち続けたレディも、内心はやはり掻き乱され、動揺していた。
グウィンドリンはタートル号の機能を何ひとつ知らない。
それどころか、奇跡や魔術による治癒でのみ負傷を癒す文化にあっては、医療などというものの概念にすら疎い。
奇跡や魔術に触れぬ者は、未開の人か、異端の者。もしくはとこしえに神都に入らぬ、辺境の怪物や獣たちぐらいであるのだから。


レディ「いえ、なんでもないわ。彼を安静にできる場所に連れて行きましょう」

真鍮鎧の騎士「私も手を貸そう。オーンスタイン様、お気をたしかに」


レディはグウィンドリンと火防女騎士とともにオーンスタインを支え、医療室の前に立つと、自動ドアの開閉スイッチの下に設けられた掌サイズのハッチを開け、中のボタンを押した。
押されたボタンは、大型医療機器を医療室内に運び込むために備えられた通路拡張機能を作動させ、自動ドアを壁内に収容し、出入り口と廊下の横幅を拡げた。
四者がその入り口を潜り、廊下を歩む様を、壁に寄りかかって座るローガンは眺める。


ローガン「………」


しかし、ローガンにはその驚異的と言える技術に驚嘆する余裕などまるで無く、かの頭脳には暗き閃きが渦巻いていた。
闇、もしくは人間性と呼ばれるものは、人の本質を司り、あらゆるものを求める。
ローガンが人間性に対して抱いていた仮説はやはり正しかったが、その偽りなき有り様は、ローガンの求めたものではなかった。
人間性の化身。つまり闇の化身と呼べるであろう者達の、自らが求めたものをことごとく滅ぼして喰らい尽くすその様は、むしろローガンが求める真の叡智からは、遥か遠くにあるものだった。


ローガン(……学びを求めたがゆえに、学びを失い、また智慧を失う)

ローガン(そうか…まずは智慧を恐るるを知るべきであったか…)

ローガン「………」フフ…


智慧を求める者が闇に生まれし者ならば、求められた智慧も必ず闇に蝕まれ、喪われる。
ならば智慧を尊ぶ者は、智慧に触れてはならない。真理を見てはならない。啓蒙を得てはならない。
それらを尊いものとしたいのならば、知るに足るだけの真の光としたいのならば、魔術を大いなるものとしたいのならば、眼も耳も口も潰れねばならないのだ。
ローガンの旅は終わった。生きる理由とともに。



床に倒れたままのビアトリスとジークマイヤーは、疲労困憊の身を起こすことができず、ローガンが静かに壊れていくさまに気付けなかった。
そして、どさくさに紛れてタートル号に逃げ込んだ盗人に、見覚えがあることにも。


コブラ「………」スッ…


床に座り込んでいたコブラは、やおら立ち上がる。
しかし力は無い。足元に伸びているパッチにも、一瞥をくれてやるのみだ。
足取り重く、コブラは力無いままに操縦席に向かい、重くなった腰を席に降ろす。

眼前にある穴の開いたフロントガラスからは風は入らない。
タートル号の船体表面に張られたフィールドが突風を遮断し、ただ澄んだ青空と、暖かな陽光をガラスに映している。
先程までの混乱はどこにもなく、タートル号には不死達の小さな息遣いだけが、微かに響くばかりだった。



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