709:名無しNIPPER[saga]
2021/06/23(水) 11:17:13.96 ID:joB1L1uj0
クリスタルボウイ「ふん、誰かと思えば貴様か、鉄板のパッチ」
パッチ「!?」
クリスタルボウイ「久しぶりだなフラムト。まだ懲りもせず、不死の使命なんぞに夢中になっているのか」
クリスタルボウイ「しかもこのような盗っ人とも絡むとはな。神の墓での働きに興味でも湧いたか」
フラムト「…人の世における貴賤は、この地では関係ありませぬぞ。不死の使命はすべての不死に課されているゆえ」
蛇と怪物が言葉を交わす中、パッチと呼ばれた男はただ、立ち竦んでいた。
暗闇が寄り集まって生じた怪物が、言葉を発した。
それだけではなく、怪物は男の名をも知っていた。
仇名と、盗人という素性。そして恐らくは、犯してきた全ての所業をも。
神も悪魔も、聖者も信仰せぬパッチの心が、クリスタルボウイに屈服するには、それだけで十分だった。
神も悪魔も聖者も、それら全てを見抜くことは決してなかったのだから。
クリスタルボウイ「貴賤は関係無いか。貴様らしい、甘ったれた考えだな」
クリスタルボウイ「だが、気持ちは理解してやれるぞ。人のためと称して人を陥れている貴様も、決して清い者ではないのだからな」
フラムト「わしが清濁のどちらであれ、わしは正道を歩きたいのです。人は闇から生まれ、しかし闇を恐れ、不死と亡者を恐れております。貴方様がお造りになった、神々と同じように」
フラムト「ならばわしは、人と神が望む光の世界を守るだけのこと。貴方様の復讐のために使い果たされるべき命など、この世にはありませぬぞ」
クリスタルボウイ「それを決めるのは俺だ」カシャッ
ズガガガァーッ!!
蛇の言葉に、怪物は鉤爪を返した。
蛇の首に突き刺さった鉤爪は、そのまま伸び進み、頭だけでも人の全身ほどもある巨大な蛇を、石壁に叩きつけた。
上半身まで引きずり出された蛇は壁を突き抜け、その後ろの岩壁にまで押し込められて、たまらず前足を腕のように使い、鉤爪を掴む。
蛇は竜の眷族であるがゆえに、体の造りはむしろ、蜥蜴に似ている。アーリマンがそう定めたのだ。
神は、尊い者に己の似姿を与える。
ゆえに鱗持つ神は、鱗持つ眷族を生むのだ。
フラムト「ゆ…許しは乞いませぬぞ!…貴方様は古き日より…誤ちを重ねている…」
クリスタルボウイ「誤ちか。そう見えるのなら、毒を食らわば皿までだ」メキメキ
フラムト「うごぉ!」
右手の鉤爪で蛇を締め上げている怪物は、その目に暗い輝きを迸らせた。
すると、暗い輝きは鉤爪を通して蛇に伝わり、見える限りの蛇の全身を包む。
フラムト「グアアアーーッ!!」
途端、蛇は叫び声をあげながら、身体の末端から黒紫色の結晶に覆われていった。
輝きそれ自体が、結晶を作り、また蛇の身体を結晶そのものへと変えているのだ。
結晶化は急速に進行し、十秒と経たずに蛇の全身を置換すると…
ベキベキベキッ
空間の全ての方向から押し潰されるかのように縮み、遂には蛇を、人差し指ほどの小さな結晶塊へと変えてしまった。
クリスタルボウイは、鉤爪に掴まれたその結晶を、鉤爪とともに手元に引き寄せると…
ペキッ
結晶を握りつぶした。
ドサッ
パッチは尻餅をついた。
腰を抜かすことは初めてではないが、圧倒的な力への恐怖に屈服したことは、初めてだった。
勝ち目のない戦い、勝ち目のない相手からはいつも逃げてきた。そしてそれらはいつも成功した。
だが、今度ばかりは逃げられない。逃げた先にも、この恐るべき怪物が作った何某かがあるのだから。
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