707:名無しNIPPER[saga]
2021/06/23(水) 07:23:58.28 ID:joB1L1uj0
悪人面の男「………」
食えると言いはしたが食わず、頑固者と呼ばわったかと思えば、お前は正しいと言う。
人を煙に撒くこの言いぶり、上から目線の妙な臭さに、男は不信感を一層募らせた。
このような言葉の連なりは、大抵何かを隠している。
見覚えも、聞き覚えも、やり覚えもあるこの嘘のつき方は、男にとっては徳とやらが高いだけの堕落した聖職者のそれにすぎない。
もっとも、男は聖職者ではなかったが。
悪人面の男「…大蛇の旦那、嘘はいけねえぜ」
悪人面の男「あんた、何か隠してるだろ?俺には分かる、それがなんにせよ大事なことなんだろ?」
フラムト「隠してなどいない。おぬしを救いたいのじゃ」
悪人面の男「ほーら来た!そういうこと言う奴だと思ったぜ。安心しろよ、俺は口が硬いんだ。話してみろよ」
清貧であれ豪奢であれ、聖なる者を自称する者達に共通するものを、男は嫌悪していた。
秘密を秘密のままとして、自らを偽り、目も耳も塞ぐ身でありながら他者に正道を説く、その厚かましさ”も“気に食わないのだ。
だが秘密を暴き、人の俗悪と偽りに触れ続けたがために、自らは悪党となったということを、男は教訓としてこの場で意識するべきだった。
目も耳も理由があって塞ぐ。秘密を暴くものは、その秘密がなんであれ、不運や業を背負うということを。
フラムト「愚か者め!逃げよと言うとろうに!」ガッ
蛇は大盾に噛み付くと…
ブン ガラァン!
悪人面の男「ハハッ、おいおい落ち着けって!俺は何もしやしないぜ?」
男の足元に投げ落とした。
男はわざとらしい呆れ笑いを浮かべながら大盾を拾う。
その目つきは、何かへの確信がより強まったことを蛇に教える。
だが蛇にとって、今この時だけは、一人の不死人の企みなどはどうでもよかった。
人が神代を支える命ならば、その命はひとつでも多く、災厄から逃れなければならないのだ。
フラムト「分からぬか!あのお方はおぬしをも喰らうぞ!」
悪人面の男「あのお方?そいつは今どこにい…」
何処にいる、という疑問を男が口にし終える前に、空が暗くなった。
悪人面の男「!? な、なんだぁっ!?」
男が空を見上げると、そこには夜空と、欠けた太陽があった。
輝く太陽の中心に見える、塗りつぶしたような、あるいは穿たれたような黒は、徐々に広がり、太陽を食っていく。
それに伴って、夜空に輝く星々も消失を始め、空に赤い輪が浮かぶ頃には、空も地も暗がりに包まれた。
赤い輪とはすなわち、太陽の残り火。闇の印である。
悪人面の男「お、おい…てめぇ、何しやがった!こりゃあなんだよ!」
フラムト「闇じゃよ」
悪人面の男「ああ!?」
蛇に槍を向けた男の脳裏からは、すでに企みなどは無い。
フラムト「偉大なる暗黒。創造の神アーリマンが降臨なさるのじゃ」
悪人面の男「か…神だぁ…?」
男が蛇の言葉を測りかねていると、空と太陽を覆う闇が、水から分たれた黒油のように粒をなして、空と太陽から分離し、剥がれはじめた。
天から剥がれた闇は降り注ぎ、地から剥がれた闇と溶け合って、ひとつどころに向かって渦を巻く。
蛇の眼前、男の眼前に収束する闇の渦は、人の形を成していき、色を発し始めると、天も地も平時の有り様を取り戻していく。
そして天地の全てが、何もなかったかのような静けさに戻った時、そこには明らかなる異物、異形が形を成していた。
透き通る皮膚と、黄金の人骨。二又の鉤爪と、黄金の異相。闇の化身、クリスタルボウイが。
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