705:名無しNIPPER[saga]
2021/06/22(火) 12:42:11.63 ID:aNONZ8sW0
フラムト「………ふーむ…」
火継ぎの祭祀場の奧で、蛇は疑問に唸っていた。
アノール・ロンドの潜む方角から、悍ましい闇の息吹を感じたと思えば、その息吹は異質なる輝きの気配に掻き消された。
しかし闇は消えたわけではなく、薄く散らばり、方々へ潜んでいるのだ。
フラムト「あの闇の気配…我らが創造主が目覚めたにしても、あの方を祓う力など、神々にあろうか…?」
フラムト「ううむ…見えぬ…我が友の世が続くに越したことはないのだろうが…」
「けっ、しばらく留守にしてる間に、やたら腐臭に塗れやがる。篝火も消えちまうし、離れ時かねぇ」
悩む蛇の長髭に、男の小さな愚痴りが響いてきた。
愚痴は足音と共に大きくなり、石床を踏みしめ、蛇の元へと姿を現した。
悪人面の男「っ!?クソ化け物が!どっから現れた!?」
木製の大盾を背負い、長槍を杖代わりに歩いていたその男は、蛇を見るや否や槍を構えて怒声を上げた。
睨みをきかせた禿頭には、青筋が立っている。
フラムト「何処から?」
悪人面の男「!?」
フラムト「見ての通りではないか。地の底から伸びておる」
悪人面の男「………」ゴクリ…
悪人面の男「へ、へへへ、なんだ喋れるじゃねえか。俺はてっきり、あんたが人喰いの化け物だと思ったんだぜ?」
フラムト「ふむ?食おうと思えば食えぬこともないが…」
悪人面の男「とっ、とおっ!」ガチャガチャ…
ガラン
悪人面の男「あっ!」
人を食えると言った怪物に盾を構えるはずが、手がもつれてしまい、男は盾を落とした。
反りが設けられた大盾は蛇のそばまで転がってしまった。
悪人面の男「………」
悪人面の男「クソ!!」
フラムト「怯えることはない。食おうと思えばの話じゃ。わしはおぬしを食わぬ」
悪人面の男「化け物を信じろって?なんの冗談だ」
フラムト「信じるか否かではない。事実を話しておる。おぬしは食われておらぬだろう?」
悪人面の男「ああ今はな。だが先のことなんぞ分からんぜ」
フラムト「頑固な者じゃな。ならばわしが寝入った時にでも盾を拾うがよかろう。老いた身じゃ。少し待てばそれで済む」
フラムト「!」ピクッ
間の抜けた男との問答の最中、不意にある気配が湧いた。
その気配は、男がここに来る前まで蛇の心中にあった疑問のもの。潜みし闇の気配であった。
フラムト「不死人よ」
悪人面の男「なんだよ」
フラムト「おぬしの言う通りじゃ。先のことなど何者にも見えぬ。この祭祀場の篝火は消えた。お主は他の篝火を探すとよいじゃろう」
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