703:名無しNIPPER[saga]
2021/06/22(火) 03:25:58.99 ID:aNONZ8sW0
コブラ「!」
立ったままのコブラの眼前には、陽光に照らされたグウィンドリンが立っている。
それだけでは現世への帰還に確信を持てなかっただろう。
だが幸いにして、グウィンドリンの肩越しに、見知った相棒であるレディの姿があったことで、コブラはすぐさま状況を認識できた。
レディ「…コブラ?」
コブラ「大丈夫だレディ。俺ならバッチリだ」
コブラ「グウィンドリン、どれくらい時間が経った?」
グウィンドリン「全ては数瞬のうちに過ぎたことだ。ふた息と経ってはおらん」
コブラ「そうかい、アレが一瞬の出来事だとはな。なんだかどっと疲れたぜ」
オーンスタイン「だが休んではおられぬぞ。大法官…いや、暗黒神の憑代たるクリスタルボウイが王の器を置くまで、もはや幾許もない」
グウィンドリン「そういうことだ。我らは急ぎ、祭祀場のフラムトの元へと赴き、器を取り戻さなければならない。ゆえにもはや語らわぬ」
グウィンドリン「火防女よ、そなたも参れ。アノール・ロンドは既に陥ちた。篝火の火を掬い、手に収めよ」
暗月の君主がそう言うと、真鍮鎧の騎士は篝火に屈み、踊る炎を両手で掬う。
掬われた炎はみるみる小さくなり、騎士の手袋を焦がすこともなく、掌に消えた。
ジークマイヤー「お待ちくだされ!コブラに何が…」
ローガン「今は語る時ではないようだ。続きは移動しながらにでも」
グウィンドリンとオーンスタインを先頭に、コブラ一行は篝火が消えた一室から出ると、使者の運び手たるレッサーデーモンが待つ高台へと向かった。
そして道中、ジークマイヤーはたまらず疑問を口にした。
ジークマイヤー「…急いでいるのならば、篝火で語らうことも…いや結構、今のは言わなかったことに」
ビアトリス「どうした?言ってみればいいだろう?言葉を交わす最後の機会かもしれないぞ」
ジークマイヤー「よしてくれ、分かってる。唯一闇を祓えるコブラが目覚めるまでは、我らは動けなかったのだ。そういじめるな」
ローガン「恥じることはない。誰も触れぬ疑問に問いを投げかけることは、探究の始まりとなろう」
遠回しなローガンの嫌味を聴きつつ、オーンスタインは戦友たる狼騎士に想いを馳せた。
唯一闇を祓える者と、かの騎士も呼ばれたが、騎士は遂に戻らなかった。
その事実は、オーンスタインに不吉な結末を予感させるに十分だった。
かくして高台に到着した一行のもとに、二十匹のレッサーデーモンの群れが現れた。
そのうちの十二匹は、コブラ、レディ、ビアトリス、ジークマイヤー、ローガン、真鍮鎧の騎士をそれぞれ掴み上げると、再び飛翔した。
しかしそのまま飛び去ることはなく、残りの八匹のデーモンがことを終えるのを待った。
八匹のデーモンのうち、二匹は二つの大椅子をぶら下げていたのだ。
その椅子は一見して簡素な作りではあったが、それゆえに堅牢に見え、上に伸びた背もたれと手すりからは、四本の縄が垂れている。
ところどころに小さく施された彫刻は、その椅子が高貴な者のためにあることを周囲に見せるものだった。
デーモン達が二つの大椅子を高台に置くと、グウィンドリンが先に椅子に座り、続いてオーンスタインが座った。
そして八匹のデーモンは二組にわかれ、一方はグウィンドリンの椅子の縄を掴み、もう一方はオーンスタインの椅子の縄を掴み、主の声を待った。
グウィンドリン「火継ぎの祭祀場へ」
主がそう言うと、二つの大椅子は宙に浮き、八匹のデーモンは十二匹のデーモンとともに、アノール・ロンドを離れた。
神を失った都は、徐々に陽光の輝きをうしなってゆく。
グウィンドリンが祭祀場に着く頃には、都は夜を迎え、闇の手の者の跋扈を許すだろう。
コブラ「皮肉だな」
グウィンドリン「何がだ?」
コブラ「蛇が神の国を追われてる」
笑みを浮かべたコブラの言葉に、グウィンドリンも唇を綻ばせた。
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