692:名無しNIPPER[saga]
2021/02/21(日) 06:34:07.57 ID:FDABxSs60
キアラン「…グウィンドリン様……貴方様があくまで、自らをして神都の王たり得ぬと仰るのならば、この身も既に王の刃ではありませぬ」
古き日のグウィンドリン「それも道理であろう」
キアラン「ですがこの身は…奮闘が足らず…貴方様の御母君を御救いできなかったばかりか、アノール・ロンドを堕ちるに任せた、罪深き身でもあります」
キアラン「ただ去るなど許されていいはずがないのです」
古き日のグウィンドリン「………」
キアラン「この身は刃の欠けた、大罪者に過ぎませぬ……どうか、お裁き下さい」
古き日のグウィンドリン「…法無き廃都に佇む、ありもせぬ罪を背負いし者を…」
古き日のグウィンドリン「同じく廃都に巣食う亡霊に過ぎぬ我が意思により、スモウの大鎚の贄とすべし、と?」
古き日のグウィンドリン「スモウ?」
廃都に巣食う亡霊は、大鎚を背負って座る巨神に微笑みかけた。
巨神の組まれた腕には、大鎚を握る気配はない。
古き日のグウィンドリン「ふむ。大王の裁きの大鎚と、ベルカの裁き大鎚と、暫定政府の裁きの大鎚の腹は、満たされているようだ」
キアラン「グウィンドリン様…」
古き日のグウィンドリン「オーンスタインとスモウのように、この半蛇の亡霊を主に選び、廃都に住まうもよい」
古き日のグウィンドリン「“元来は亡霊も、暗月の子にして王家の血筋である”と頑なに想い、その王族だった者からの裁きをあくまで欲するもよい」
古き日のグウィンドリン「しかし、この亡霊にも“我”というものがある。グウィンドリンの大鎚を求めるならば、仮面を取り、我がもとへ」
しばしの逡巡の後、キアランは主の声に従い、暗月の君子の前に跪き、兜と仮面を外して胸元に抱えた。
群青色の兜と白磁の仮面から現れた女神の髪は、白金色の艶を纏う金であり、その顔は、幼さを残しつつも精悍さを備えていた。
しかしその表情は暗く沈み、罪悪感によって、眉はひそめられていた。
古き日のグウィンドリン「あくまで王なき都に王を見出し、罪無き身に罪を見出し、法なき場に裁定を求めると言うのならば、裁こう」
古き日のグウィンドリン「このアノール・ロンド最後の主にして、暗月の血筋の長子グウィンドリンの名のもとに、汝に裁定を下す」
キアランの表情から険しさは消えることが無かったが、かの女神の放つ緊張がいくらか和らいだことを、コブラは察知した。
欠けた裁きの刃は王家の威光という、欠けること無き真なる裁きの刃によってのみ、その身をようやく憩う。
その時が来たのだ。
古き日のグウィンドリン「四騎士が一柱、王の刃キアラン。汝をこれよりあらゆる寵愛、あらゆる庇護、あらゆる栄誉、あらゆる任から外し…」
古き日のグウィンドリン「また、それらから生ずるあらゆる責、あらゆる禁則、あらゆる罪科から解放する」
キアラン「ッ!?」
だが時はくれども、威光はキアランを砕かなかった。
大鎚は振られるどころか、握られることさえもなく、スモウの背に掛けられたままである。
暗月の君子は、驚愕をあらわに見上げたキアランに構わず、声を紡げる。
古き日のグウィンドリン「よって、そなたが身に帯びる武具はこれよりアノール・ロンドの尊名より離れ、そなたのものとなる」
キアラン「お、お待ちください!何を言うのですかっ!?それでは道理に反します!」
古き日のグウィンドリン「道理がなんだと言うのだ?」
キアラン「なんっ…!?」
古き日のグウィンドリン「我は王ではなく、ここは神都ではなく、汝らも騎士ではなく、規範は無い」
古き日のグウィンドリン「我はそなたの生命を尊く想った。そして道理はそなたを虐げ、踏み躙りはしたが、我はそれが気に食わぬ」
古き日のグウィンドリン「ゆえに我は、道理の言葉など聞かぬことにした。それだけだ」
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