680:名無しNIPPER[saga]
2020/08/17(月) 03:37:00.80 ID:d4JScyJb0
友に肩に触れられ、兜を覗きこまれても、竜狩りの騎士は立ち上がらない。
立ち上がる力も、理由も無いのだ。
キアラン「オーンスタイン、すまない……貴公ではなく、私がやるべきだったのだ」
キアランの震える声に、オーンスタインは僅かに応える。
オーンスタイン「…王命も、それに類する命も受けられぬ身であった貴公に、振るえる凶刃ではない…」
オーンスタイン「そして、もはや何者もその刃を振るわぬだろう…」
オーンスタイン「…総ては終わったのだ…」
竜狩りはただそれのみを呟いた。
キアランは輝く双剣を身に帯びていたが、それらがオーンスタインの首を掻くことはない。
裁きを下す者は無く、法も信義も、それらを見る民さえ、遥か昔に喪われていたのだから。
ドズゥーン…
大広間の奥からささやかな地鳴りが響き、キアランは振り返った。
かの女神の視線の先には、スモウとかの神の肩に乗る暗月の君主の姿が。
シュルルッ…
王城に充満する神々の気配と、怒りに満ちた雷光とを知り、全てを悟ったその君主は竜狩りに駆け寄った。
古き日のグウィンドリン「愚かなことを……そなたばかりが何故に、こんな…」
オーンスタイン「………」
キアラン「グウィンドリン様、私には決して…」
古き日のグウィンドリン「言うな。そなたに友を斬れとは言わぬ」
古き日のグウィンドリン「竜狩りの騎士を逆徒と視る法も、それらに浴する者も既に亡い。臣民に棄てられ、臣民を棄てた我が身も……もはや位など持たぬ」
古き日のグウィンドリン「それでも命を求めるならば命じよう。汝、友を殺すなかれ」
位を棄てし暗月の女神の言葉に、キアランは何も言わず、ただ首を垂れて深い謝意を示した。
キアランの白磁色の仮面から小さく漏れる吐息は、かすかに震えていた。
古き日のグウィンドリン「オーンスタイン、行こう」
オーンスタイン「………」
古き日のグウィンドリン「貴公の雷はあらゆる番兵を焼いたが、白竜公も、貴公らの友でもある鍛冶師もまだ牢の中だ」
オーンスタイン「…既に、この地には神々に報いてくれるものも、神々が護るべきものもありません」
オーンスタイン「そのような地で…殺戮に穢れた我が腕に、何を行えと言うのです……」
古き日のグウィンドリン「………」
古き日のグウィンドリン「…もう、よいのだ、オーンスタイン」
古き日のグウィンドリン「貴公が手を下さなくとも、いずれはこうなっていたのだ。神が裁かぬなら人が、雷が焼かぬなら闇が、この地を呑んだろう」
古き日のグウィンドリン「闇に蝕まれたならば、こうして我らは話もできず、城さえも塵となったはず」
古き日のグウィンドリン「焼けた家が田畑を焦がす前に、貴公は家を打ち壊しただけなのだ」
オーンスタイン「………」
古き日のグウィンドリン「さぁ、槍を取り、共に牢を破ろう。スモウも大鎚を背負っているのだ。力を合わせれば、白竜公もすぐに自由となろう」
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