【スペース・コブラ】古い王の地、ロードラン
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676:名無しNIPPER[saga]
2020/05/17(日) 18:29:50.31 ID:z2r6HZP10
大広間に炸裂した雷の爆発は、白い石床も、象牙色の柱も砕かなかった。
王城内部を駆け巡った雷は、ただ生命あるものを焼いた。
司祭、銀騎士、銀騎士長。
神々に仕える侍従たち。神々に仕える執事たち。
小姓たちに、小間使いたち。法官たち。
書記官たちと、残りし神々。暫定議長。
雷はかの者たちを尽く滅ぼしたが、何も知らずに牢に繋がれていた鍛治の巨人を焼かなかった。
牢に繋がれし刺客の長を焼かなかった。
暗月の女神たちを焼かなかった。
忠義者たるスモウを焼かなかった。
闇を秘めし大法官を焼かなかった。
そして、グウィンドリンを焼かなかった。

だが、雷は老いたる者を焼いた。

若き者を焼いた。

男神も。女神も。

赤子さえ。



コブラ「………じゃあ、城の巨人騎士たちの中にあったソウルは…」


グウィンドリン「夥しい量のソウルを用いて、我は幻術を練り、銀騎士を形作り、翼もつデーモンを引き留め、ガーゴイルを動かした」

グウィンドリン「巨人の鎧に生命を宿らせ、アノール・ロンドに偽りの太陽を掲げた」

グウィンドリン「かつて愛した、同胞たちの残滓によって」


竜狩りの雷は神々を焼くと、さらにその亡骸をも滅ぼした。
赤子の小さな手からソウルが吹き出し、女神の顔は砂山の如く砕け、男神の外套は引き裂かれ、風に消えてゆく。
神秘色に輝く王城の中に、オーンスタインの叫びが響く。
太陽を失い、月をも棄てた者たちは神として半ば死しており、雷の前にさえも酷く脆弱だったのだ。


グウィンドリン「そして、オーンスタインが神々を討ったこの日に、我らは人に伝えし最後の物語を書き記した」

グウィンドリン「“神の怒り”……それはあまりに長き、苦しみと怨嗟の物語」

グウィンドリン「ゆえに人は、神都を裂く憎しみの輝きを畏れて、物語を刻み、封じ、忘れた」

グウィンドリン「己に近しい者達を尽く滅ぼす輝きなど、この世にあってはならない、と」



雷が消え、雷鳴が止むと、大広間には二柱の神のみが残っていた。
広間の中心にはオーンスタインが佇み、竜狩りの後方、破れた正門の近くには、大法官が立っていた。
大法官の気配は影に潜む血の如く溶け、消えており、オーンスタインはかの者に背を見られていることに気付かない。


オーンスタイン「………」


オーンスタインは手に持つ竜狩りの槍を見る。
その槍先には血の一滴も付いておらず、臓腑の一切れも巻かれていない。
槍はまるで鍛えられたばかりとでも言わんばかりに、端正な真新しさを見せていた。

何故オーンスタインが怒声さえも上げず、長槍を叩き折りもしないのかを、コブラは痛みを覚えるほどに理解していた。
代償さえも払わずに、護るべきものを喪ったこと。愛する者に裏切られ、もはや元に戻らぬそれらを自らの手で滅ぼすこと。
哀しみに打ちのめされ、生はおろか死さえも選べぬほどの絶望。その苦しみをコブラは知っていた。
だがオーンスタインは、コブラのように星を砕かんばかりの怒りを以て、絶望を飲み込むことはできないだろう。
もはや怒りも無く、怒りを抱ける者も無い。
オーンスタインは立つ地を無くしたかのようにへたり込んだ。
槍を保持する力も無く、掌からこぼれた槍は、音を立てて石床に転がった。


「オーンスタイン!」


静寂が横たわる大広間に声が響く。
だが、オーンスタインは友の言葉に声を返すことすらできない。
それどころか、顔を上げることさえも。


キアラン「オーンスタイン!聞こえるか!?オーンスタイン!」


オーンスタインの元に駆け寄った者は、王の刃キアラン。
雷は牢番さえも焼いているが、牢番が居ようが居まいが、刺客の長の身ならばいつでも破牢は可能であり、それを今まで行わなかったのは、ひとえに王家の名のもとに身を控えていたに他ならない。
だがキアランは牢を抜けた。王城を揺るがす雷鳴が響き、牢番が蒸発した時に、かの女神は全てを悟ったのだ。
臣民無き国には王も無し。王家の名を王家のもの足らしめるもの、その国家たるあらゆる規範が消え去ったことを。


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